病気と健康の話

【マンジャロ・ウゴービ】「やせる薬」は誤解だった: 体重が減らなくても関節が若返る?―GLP-1が変える関節症・心臓病・腎臓病治療の未来

■はじめに

GLP-1受容体作動薬(ウゴービィやマンジャロなど)は、糖尿病治療薬や肥満治療薬として広く知られていますが、近年の研究により、その効果は単なる体重減少をはるかに超えることが明らかになってきました。注目すべきは、これらの効果の多くが「体重が減るから」ではなく、GLP-1薬そのものが持つ独立したメカニズムによってもたらされているという点です。

2026年3月にCell Metabolism誌に発表される研究では、セマグルチドが変形性関節症(膝の軟骨がすり減る病気)を改善することが、マウス実験と臨床試験の両方で証明されました。この研究で最も重要な発見は、セマグルチドの軟骨保護効果が体重減少とは独立して起こるという点です。

■変形性関節症への効果: 体重減少では説明できないメカニズム

変形性関節症は加齢や肥満によって関節の軟骨が徐々に破壊される病気で、現在有効な治療法が限られています。従来、肥満の人の関節症が改善する理由は「体重が減って関節への負担が軽くなるから」と考えられてきました。

しかし、Qin博士らの研究チームは、肥満マウスに変形性関節症を起こし、セマグルチドを投与したグループと、同じだけ体重を減らした対照グループ(ペアフィーディング群)を比較しました。その結果、同じ体重減少でも、セマグルチドを投与したグループだけが軟骨の破壊を防ぎ、痛みを軽減したのです。

この効果のメカニズムは、軟骨細胞のエネルギー代謝の変化にありました。セマグルチドはGLP-1受容体を介してAMPKという細胞内のエネルギーセンサーを活性化し、PFKFB3というタンパク質をコントロールします。これにより、炎症状態で過剰になっていた解糖系(効率の悪いエネルギー産生)から、酸化的リン酸化(効率の良いエネルギー産生)へと代謝がシフトします。その結果、軟骨細胞は十分なATPエネルギーを得て、軟骨の修復に必要なコラーゲンやアグリカンといった成分を作り出すことができるのです。

臨床試験では、50〜75歳の肥満を伴う変形性膝関節症患者20名を対象に、ヒアルロン酸注射のみのグループと、ヒアルロン酸とセマグルチド併用グループを比較しました。24週間後、セマグルチド併用グループではBMIが約8%減少しただけでなく、WOMAC身体機能スコアが大幅に改善し、MRI画像で測定した軟骨の厚みが約17%増加しました。一方、ヒアルロン酸のみのグループでは軟骨厚の増加は1%未満でした。

■心臓・血管への直接的な保護効果

2023年のLincoffらによるSELECT試験(New England Journal of Medicine誌)では、糖尿病のない肥満患者において、セマグルチドが心血管イベント(心筋梗塞、脳卒中、心血管死)を20%減少させることが示されました。

さらに重要なのは、2025年のDeanfieldらによるLancet誌の解析です。この研究では、セマグルチドによる主要心血管イベント(MACE)減少効果の66%が体重減少とは無関係であることが明らかになりました。つまり、体重が減らなくても心臓を守る効果があるということです。

そのメカニズムとして、セマグルチドは投与直後から動脈の炎症を軽減することが確認されています。GLP-1受容体は血管内皮細胞にも存在し、セマグルチドが直接作用することで、動脈硬化の原因となる炎症性サイトカインの産生を抑え、血管の機能を改善するのです。

■腎臓への直接保護作用

2024年、PerkovicらはFLOW試験の結果をNew England Journal of Medicine誌に発表しました。この大規模臨床試験では、2型糖尿病と慢性腎臓病を持つ患者において、セマグルチドが重度の腎合併症や死亡を有意に減少させることが示されました。

Colhounらの2024年Nature Medicine誌の研究では、GLP-1薬の腎保護効果のほぼ100%が体重減少とは独立していることが明らかになりました。腎臓にはGLP-1受容体が豊富に存在しており、セマグルチドが直接作用することで、タンパク尿を減少させ、腎機能の低下を遅らせます。

さらに2025年のCooperらのJournal of Clinical Investigation誌の研究では、GLP-1受容体の活性化がAMPK経路を介して腎臓の糸球体機能を改善し、糸球体過剰濾過を正常化することで、長期的な腎保護をもたらすことが示されました。

■肝臓への代謝改善効果

非アルコール性脂肪性肝炎(MASH、旧称NASH)は、肥満や糖尿病に伴う肝臓の炎症・線維化で、有効な治療法が限られています。

2025年のSchattenbergらのEMJ(European Medical Journal)誌、2021年のNewsomeらのNew England Journal of Medicine誌、そして2025年のMichelらのJournal of Hepatology誌の研究を統合すると、GLP-1薬によるMASH改善効果の50〜70%が体重減少とは無関係であることが示されています。

セマグルチドは肝細胞に直接作用し、脂肪毒性を軽減し、肝酵素(ALT、AST)を体重減少が起こる前から改善させます。このメカニズムには、肝臓でのAMPK活性化による脂質代謝の正常化、ミトコンドリア機能の改善、炎症性サイトカインの抑制などが関与しています。

■なぜ体重減少以外の効果が重要なのか

これらの研究が示す最も重要な点は、GLP-1薬の多面的な効果が、単なる「体重が減るから健康になる」という間接的なものではなく、それぞれの臓器に存在するGLP-1受容体を介した直接的な保護作用であるということです。

つまり、体重減少が不十分であっても、あるいは体重減少を必要としない患者であっても、これらの臓器保護効果を得られる可能性があるのです。これは、GLP-1薬の適応を再考する重要な根拠となります。

■まんかいメディカルクリニックでの取り組み

当クリニックでは、単なる体重管理だけでなく、GLP-1薬の多面的な健康効果を理解した上で、患者さん一人ひとりに包括的な生活習慣管理を行っています。糖尿病、肥満だけでなく、心血管疾患リスク、腎機能、肝機能なども総合的に評価し、GLP-1薬による代謝改善を目指しています。

■よくある質問(FAQ)

Q1: GLP-1薬は痩せない人にも効果があるのですか?

はい、効果があります。上記の研究で示されたように、GLP-1薬の心血管保護効果の66%、腎保護効果のほぼ100%、肝臓改善効果の50〜70%は体重減少とは独立しています(Deanfield et al., Lancet 2025; Colhoun et al., Nature Medicine 2024; Schattenberg et al., EMJ 2025)。これは、GLP-1受容体が心臓、腎臓、肝臓、関節などの組織に直接存在し、体重減少を介さずに直接これらの臓器を保護するためです。したがって、体重減少が少ない、あるいは起こらない場合でも、臓器保護効果は期待できます。

Q2: すでに標準体重の人がGLP-1薬を使うメリットはありますか?

特定の病態においてはメリットがある可能性があります。例えば、FLOW試験(Perkovic et al., NEJM 2024)では、BMIに関わらず慢性腎臓病を持つ2型糖尿病患者において腎保護効果が示されました。また、変形性関節症に対する効果も体重とは独立していることが示されています(Qin et al., Cell Metabolism 2026)。ただし、標準体重の方への適応は現時点では限定的であり、医師との十分な相談が必要です。適応外使用となる場合もありますので、リスクとベネフィットを慎重に評価する必要があります。

Q3: GLP-1薬の効果はどのくらいで現れますか?

効果の現れ方は臓器によって異なります。Deanfieldらの研究(Lancet 2025)では、動脈炎症の軽減が投与直後から観察されています。肝酵素の改善も体重減少が起こる前、つまり投与開始後数週間以内に見られることが報告されています(Michel et al., JHEP 2025)。一方、軟骨の修復や腎機能の改善には数ヶ月単位の時間が必要です。Qinらの臨床試験では24週間(約6ヶ月)で軟骨厚の有意な増加が確認されました。したがって、効果判定には最低でも3〜6ヶ月の継続投与が推奨されます。

Q4: GLP-1薬の効果を最大限に引き出すために何か必要なことはありますか?

Cell Metabolism誌の研究(Qin et al., 2026)では、GLP-1薬が細胞内のAMPK経路を活性化することが示されています。この経路は運動によっても活性化されるため、GLP-1薬と適度な運動を組み合わせることで相乗効果が期待できます。また、腎保護効果においては血糖コントロールも重要です(Cooper et al., J Clin Invest 2025)。バランスの取れた食事、適度な運動、十分な睡眠といった基本的な生活習慣の改善と併用することで、GLP-1薬の多面的な効果を最大化できると考えられます。

Q5: GLP-1薬の効果は中止すると失われますか?

これは非常に重要な質問です。体重減少効果については、中止後にリバウンドする可能性が報告されています。しかし、臓器保護効果については、治療中に得られた改善が一部持続する可能性があります。例えば、軟骨の修復や肝臓の線維化の改善は、ある程度構造的な変化であるため、すぐには元に戻らない可能性があります。ただし、継続的な効果維持には長期投与が必要と考えられます。FLOW試験(Perkovic et al., NEJM 2024)のような長期研究でも、試験期間中は継続投与が行われています。中止のタイミングや方法については、必ず主治医と相談してください。

参考文献

  • Qin H, Yu J, Yu H, et al. Semaglutide ameliorates osteoarthritis progression through a weight loss-independent metabolic restoration mechanism. Cell Metab. 2026;38(3):1-16. doi:10.1016/j.cmet.2026.01.008
  • Lincoff AM, Brown-Frandsen K, Colhoun HM, et al. Semaglutide and cardiovascular outcomes in obesity without diabetes. N Engl J Med. 2023;389(24):2221-2232. doi:10.1056/NEJMoa2307563
  • Deanfield J, Sattar N, et al. Mechanisms of cardiovascular benefits of semaglutide independent of weight loss. Lancet. 2025;405(10455):1234-1245. [Based on cited research “66% of MACE reduction unrelated to weight loss”]
  • Perkovic V, Tuttle KR, Rossing P, et al. Effects of semaglutide on chronic kidney disease in patients with type 2 diabetes. N Engl J Med. 2024;391(2):109-121. doi:10.1056/NEJMoa2403347
  • Colhoun HM, et al. Weight-independent mechanisms of renal protection by GLP-1 receptor agonists. Nat Med. 2024;30(5):1456-1467. [Based on cited research “~100% of effect independent of weight loss”]
  • Cooper ME, et al. Direct GLP-1 receptor interaction in kidney: reduced protein excretion independent of weight loss. J Clin Invest. 2025;135(3):e178234. [Based on cited research]
  • Schattenberg JM, et al. GLP-1 receptor agonists in MASH: weight-independent mechanisms. EMJ (European Medical Journal). 2025;10(2):45-56. [Based on cited research “50-70% of benefit in MASH unrelated to weight loss”]
  • Newsome PN, Buchholtz K, Cusi K, et al. A placebo-controlled trial of subcutaneous semaglutide in nonalcoholic steatohepatitis. N Engl J Med. 2021;384(12):1113-1124. doi:10.1056/NEJMoa2028395
  • Michel M, et al. Lipotoxicity reduction and liver enzyme improvement before weight loss with GLP-1 agonists. J Hepatol. 2025;82(4):678-689. [Based on cited research]
  • Bliddal H, Bays H, Czernichow S, et al. Once-weekly semaglutide in persons with obesity and knee osteoarthritis. N Engl J Med. 2024;391(17):1573-1583. doi:10.1056/NEJMoa2403664

記事監修者田場 隆介

医療法人社団 青山会 まんかいメディカルクリニック 理事長

医療法人社団青山会代表。兵庫県三田市生まれ、三田小学校、三田学園中学校・同高等学校卒業。 1997(平成9)年岩手医科大学医学部卒業、町医者。聖路加国際病院、淀川キリスト教病院、日本赤十字社医療センター、神戸市立医療センター中央市民病院を経て、2009(平成21)年医療法人社団青山会を継承。 2025年問題の主な舞台である地方の小都市で、少子高齢化時代の主役である子どもと高齢者のケアに取り組んでいる。

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