病気と健康の話

【インフルエンザ】早く来るインフルエンザ ―インフルエンザH1N1『G155E』という免疫のすり抜けと、新型コロナPJ.2.1・SS.2―

はじめに ― 早く来るインフルエンザ

「インフルエンザは冬の病気」。昨年から、その常識が音を立てて崩れつつあります。例年、国内外ともにインフルエンザの陽性率が立ち上がるのは 11 月以降です。しかし今シーズンは、すでに学級閉鎖が相次ぎ、英国や米国西海岸でも、この時期としては異例の陽性率上昇が報告されています。学術誌Natureが2026 年10 月に報じた分析では、米国の臨床検査室におけるインフルエンザ陽性率の上昇カーブが、過去数シーズンに比べておよそ1か月前倒しになっていることが示されました(文献2)。
興味深いことは「主役の交代」です。記憶に新しい2025/26シーズンは、A香港型(H3N2)の新しいグループである「subclade K(J.2.4.1)」が世界的に猛威をふるいました(文献3)。ところが今シーズン、米国で9月末時点に型別された陽性例の約96%はH1N1(いわゆる2009年パンデミック由来のH1N1pdm09)であり、H3N2は4%弱、B型はほぼ検出されていません(文献2)。そしてこのH1N1に、「G155E」という免疫のすり抜けに関わるアミノ酸変異が高い割合で見つかっているのです(文献1、2)。
同時に、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)も静かに動いています。海外では高度に変異した「PJ.2.1」が5月の検出以降、大陸をまたいで着実に増加しており(文献10)、国内のゲノム情報では「SS.2」が夏の一時的な落ち込みから再び急拡大し、直近では過半を占める地域も出てきました。本コラムでは、「なぜ今年は早いのか」「G155E とは何なのか」「ワクチンは意味があるのか」「コロナはどうなっているのか」の4点を、2025年から2026年にかけて発表された欧米の最新論文を手がかりに、できるだけ正確に、そして日常生活に落とし込める形で整理します。

1. 昨年の猛威は「subclade K」だった ― H3N2が主役だった2025/26 シーズン

まず、昨シーズンを振り返っておきましょう。2025/26 シーズンに世界を席巻したのは、A香港型(H3N2)のなかでも「subclade K」と呼ばれる系統(系統名J.2.4.1)でした。英国健康安全保障庁(UKHSA)のKirsebomらがEurosurveillance 誌(2025 年、第 30 巻46号)に報告したところによれば、イングランドでは2025年秋の流行開始期からこのsubclade Kが優位を占め、しかもフェレット抗血清を用いた抗原性解析では、その年のワクチン株との反応性が低下していました(文献 3)。いわゆる「ワクチン株とのズレ(antigenic mismatch)」です。
ここで重要なのは、「ズレていたから効かなかった」わけではないという点です。同じ報告における流行初期のワクチン有効率(VE)は、18 歳未満の小児・思春期で救急受診や入院の抑制に対して 72〜75%、成人で 32〜39%と推定されました(文献 3)。著者らはこれを「例年の範囲内」と評価し、抗原性のズレがあってもワクチン接種は臨床的な発症・重症化の抑制に寄与し続けている、と結論づけています。
この「ズレても一定の効果は残る」という事実は、今シーズンを考えるうえでの基礎になります。インフルエンザワクチンは、感染をゼロにする盾ではなく、重症化という結末の確率を下げる保険です。昨シーズン、subclade K の流行下でも入院が抑えられたという欧州のデータは、今年の変異に向き合うときの心強い前提となります。

2. 今年は約1か月早い ― 北半球で同時進行する「前倒し」

2026 年の秋、北半球の複数の地域で、例年より明らかに早いインフルエンザの立ち上がりが観察されています。英国と米国西海岸では、この時期としては異常に高い陽性率が報告され、日本でも夏休み明けの8月から9月初旬にかけて学級閉鎖を伴う集団発生が生じました(文献 2)。Nature 誌が掲載したグラフでは、2026/27 シーズンの陽性率カーブが、2024/25・2025/26 シーズンの同時期を大きく上回り、9 月の時点ですでに 3%台に乗っていることが示されています。過去数年、この上昇が始まるのは11月でした。
専門家の受け止めも一様ではありません。ペンシルベニア大学のScott Hensley教授は、西海岸での増加ペースがこのまま続けば「とてつもなく早いシーズンになる」と述べています。一方でオックスフォード大学のJames Hay博士は、流行の開始が早いことは必ずしも流行が重いことを意味しない、と慎重な見方を示しています(文献 2)。ジョンズ・ホプキンス大学のCaitlin Rivers 博士は「何かが起きているのは確か」として、例年なら10月中旬から下旬に受けるワクチンを、今年はできるだけ早く接種することを検討していると公表しました。
ここから導かれる実務的な結論はシンプルです。流行曲線が1か月前倒しになっているなら、ワクチン接種のタイミングも前倒しすべきだということです。インフルエンザワクチンは接種後およそ2週間で抗体が立ち上がり、効果のピークを経て数か月かけて徐々に減衰します。流行が11月から始まる前提で「11月に打てば十分」と考えていると、今年は立ち上がりに間に合わない可能性があります。当院でも、10月中の接種をお勧めしています。

3. 「G155E」とは何か ― H1N1が獲得した免疫のすり抜け

今シーズンの主役は、H3N2 ではなく H1N1pdm09 です。そして米国ワシントン大学のAlexander Greninger らの検査室では、シアトルの医療機関から集められた H1N1 検体のうち、変異の判定が可能であった17検体中13検体で「G155E」という変異が見つかりました(文献2)。G155Eとは、ウイルスが細胞に取りつく突起であるヘマグルチニン(HA)の155番目のアミノ酸が、グリシン(G)からグルタミン酸(E)に置き換わった変異を指します。この 155 番付近は「Sa」と呼ばれる抗原部位、つまりヒトの中和抗体が結合して攻撃する「的」の一つです。的の形が変われば、これまでの抗体は当たりにくくなります。
この「当たりにくさ」を実測したのが、米国フレッド・ハッチンソンがん研究センターのJesse Bloom らのグループです。Kikawaらは2026年9月のプレプリント(文献1)で、2026年4 月から8月に採取された325人分のヒト血清と148種類の流行ウイルス株を組み合わせ、延べ47,851件の中和抗体価を測定しました。その結果、現在ほぼすべてのH1N1が属する系統「D.3.1.1」に G155E が加わると、同じウイルスの G155E なし版と比べて 2 倍以上中和されにくくなる血清が、72検体にのぼったと報告しています。さらにG155Eは、異なる遺伝的背景のウイルスで繰り返し独立に出現しており、これは自然選択が働いていること、つまり「ヒトの集団免疫をすり抜けるのに有利な変異である」ことを強く示唆します。
ただし、著者ら自身が慎重な注釈を付けている点も正確にお伝えすべきでしょう。本研究は査読前のプレプリントであり、またG155E以外の抗原変異が今後優勢になる可能性も残されています(文献 1)。「G155E を持つウイルスが今シーズンを支配する」と断定できる段階ではありません。それでも、流行の前倒しとG155Eの高頻度検出が同時に観察されている事実は、臨床現場として軽視できないシグナルです。

4. なぜ10代・20代が狙われるのか ― 免疫の「刷り込み」という視点

Kikawa らの解析でもう一つ注目すべきは、G155Eを持つウイルスに対して中和能が落ちていた血清の多くが、おおむね15歳から25歳の年齢層に由来していたという点です(文献1、2)。Nature誌の解説では、この年代の方々は過去に類似したH1N1ウイルスに曝露された経験が乏しいため、もともとG155E近傍を狙う抗体のレパートリーが薄いのではないか、と説明されています(文献2)。
免疫学には「抗原原罪(original antigenic sin)」あるいは免疫刷り込み(imprinting)と呼ばれる現象があります。人生で最初に出会ったインフルエンザウイルスの型が、その後の免疫応答の方向性を長く規定するという考え方です。2009年のパンデミックH1N1に幼少期で出会った世代と、その後に生まれ、異なる抗原にさらされてきた世代とでは、同じ変異ウイルスに対する「見え方」が違います。今回の知見は、この理論が実際のウイルス進化の現場で可視化された例といえます。
臨床的な含意は明確です。10代から20代の若い方々は、「自分は健康だからインフルエンザにかかっても大丈夫」と考えがちですが、今シーズンはむしろ最も感染しやすい層になりうるということです。そして彼らは学校や職場、部活動、アルバイト先を通じて社会の接触網の中心に位置し、高齢のご家族や基礎疾患をお持ちの方へウイルスを橋渡しする立場にもあります。若い世代の接種は、自分のためであると同時に、家庭内の最も弱い方を守る行為でもあります。

5. 今年のワクチンは「ズレている」のか ― それでも打つ理由

世界保健機関(WHO)は2026年2月27日、2026/27年北半球シーズン向けのインフルエンザワクチン組成を勧告しました。鶏卵培養ワクチンではA/Missouri/11/2025(H1N1)pdm09類似株、A/Darwin/1454/2025(H3N2)類似株、B/Tokyo/EIS13-175/2025(ビクトリア系統)類似株の3価構成です(文献4)。B型山形系統は2020年3月以降、世界で検出がなく、構成から外れています。つまり今年のワクチンのH1N1成分は2025年の流行株を基に選定されており、その後にG155Eが広がったとすれば、ある程度のズレが生じることは理論上避けられません。
しかし「ズレ=無効」ではないことは、前述のsubclade Kの実例が示す通りです(文献3)。さらに米国医師会(AMA)とVaccine Integrity Projectが2026年の呼吸器ウイルスシーズンに向けて行った大規模なエビデンスレビュー(JAMA誌、文献6)では、インフルエンザワクチンの安全性・有効性を扱う 69 報を精査した結果、高齢者においてインフルエンザ関連入院を19.0〜43.0%、死亡を 30.0〜65.8%減少させ、乳幼児・小児では 28〜67%の有効率が得られたことが示されています。妊娠中の接種は乳児の発症リスクを 44.4%下げたという報告もありました。さらにギラン・バレー症候群を含む重篤な有害事象との有意な関連は認められず、新型コロナワクチンやRSVワクチンとの同時接種でも安全性の懸念は示されませんでした。
製剤の進歩も見逃せません。40,703人を対象とし11か国301施設で実施された第III相試験では、メッセンジャーRNA 型インフルエンザワクチン(mRNA-1010)が標準用量ワクチンに対し26.6%高い相対有効性を示しました(発症率 2.0%対 2.8%、文献 9)。高齢者においては高用量ワクチンの入院抑制効果が標準用量を上回るという知見も蓄積しています(文献6)。「ワクチンは毎年同じ」ではなく、確実に進化している分野なのです。

6. もう一つの波 ― 海外で増えるPJ.2.1、国内で急増するSS.2

この秋に注意すべき呼吸器ウイルスは、インフルエンザだけではありません。新型コロナウイルスも静かに世代交代を続けています。2026年9月に公開されたプレプリント(文献10)によれば、MC.10.1を祖先とする「PJ.2.1」は2026年5月の検出以来、大陸をまたいで急速に広がり、スパイクタンパクに25を超える変異を蓄積しながら、ヒトACE2受容体への結合能がNB.1.8.1、XFG、BA.3.2.2 といった同時期の変異株を明確に上回ることが示されました。
一方で同じ研究は、PJ.2.1 が変異数の多さにもかかわらず抗原性としてはJN.1系統と近縁にとどまり、強い液性免疫逃避は示さない、とも報告しています(文献 10)。つまりPJ.2.1 の「強さ」の本質は、抗体をすり抜ける力というより、細胞に取りつく効率の高さ(受容体結合能)にあると考えられます。米国では州単位の報告でPJ.2.1の占める割合が2割を超える地域が出始めており、公開ゲノムデータに基づく系統解析でも、単一のクラスター感染ではなく複数の独立した系統から同時に検出される、すなわち市中での定着を示唆する像が報告されています。
国内に目を転じると、様相はやや異なります。公開されているゲノムサーベイランス情報の集計では、8 月中旬にいったん 27%程度まで占有率を落とした「SS.2」が、PQ.2.8.1/RC.1やPQ.16.1.1/SV.1 との競合を押し返し、直近では 67%前後まで再拡大した地域が報告されています。首都圏では8月中旬にBA.3.2 系統が優勢であった地域もあり、国内の株構成は地域差を伴いながら流動的です。いずれにせよ、インフルエンザとコロナが同時に動く「ツインデミック」の条件は、この秋そろいつつあります。JAMA 誌に掲載された新型コロナワクチンのエビデンスレビュー(文献 7)では、155 報の解析から、ワクチン接種が重症化・医療受診・死亡のリスク低下と一貫して関連し、18 歳以上の入院予防効果は 19.5〜55%、妊娠中の接種は妊娠中のコロナ関連受診を約60%減らし、生後2か月までの乳児で50〜54%の予防効果をもたらしたと報告されています。

7. 「かかってから薬で治せばよい」の落とし穴 ― 抗ウイルス薬耐性という現実

日本は世界有数の抗インフルエンザ薬使用国であり、「かかっても薬があるから大丈夫」という感覚が広く共有されています。しかし薬剤耐性の問題は、想像以上に身近です。ジュネーブ大学のFageらがAntiviral Research誌(2025年、239巻106174)に報告した研究は、この点に重要な示唆を与えます(文献 5)。研究チームは、ヒト気道上皮モデル(HAE)とマウスを用いて、H1N1pdm09 に対するバロキサビル(商品名ゾフルーザ)、オセルタミビル(同タミフル)、および新規開発中のHA標的化合物(CD-6’SLN、CD-SA)の「耐性が生じにくさ(耐性バリア)」を比較しました。
結果は率直なものでした。新規のHA標的化合物では2〜4週間という短期間で著明な感受性低下が出現し、しかもウイルスの増殖能(フィットネス)は落ちませんでした。バロキサビルでも4週間以内に感受性低下が確認され、PA遺伝子にC241YやE23Gといった変異が検出されています。一方、オセルタミビルについては同じ期間内に感受性低下は認められませんでした。さらに重要なことに、既存薬と新規化合物を組み合わせる併用療法でも、HA 変異を持つ耐性ウイルスの出現は防げなかったのです(文献 5)。著者らは、高い耐性バリアを持つ抗インフルエンザ薬の開発にはさらなる研究が必要であり、動物実験に進む前にヒト気道上皮モデルでの評価を行うべきだと結論づけています。
もちろん、これは「薬が効かない」という話ではありません。実際、4,000 人超・272 施設で実施された第 III 相試験(CENTERSTONE)では、バロキサビルの単回投与が、同居する未治療家族の感染オッズを32%低下させることが示されました(文献8)。治療薬は患者さん個人を救うだけでなく、家庭内伝播を減らす公衆衛生的な武器でもあります。ただし耐性変異が選択されうる以上、薬だけに依存する戦略は長期的には脆弱です。「かからないようにする」ワクチンと、「かかったときに拡げない」治療薬は、どちらか一方ではなく、両輪として機能します。

8. この秋できること ― 接種時期・同時接種・受診の目安

第一に、接種のタイミングです。流行が約 1 か月前倒しになっている以上、「11 月に入ってから」では遅い可能性があります。抗体の立ち上がりに約2週間を要することを踏まえ、10 月中、遅くとも11月上旬までの接種をお勧めします。特に65歳以上の方、慢性呼吸器疾患(喘息・COPD)、糖尿病、心疾患、腎疾患をお持ちの方、妊娠中の方、そして受験を控えたお子さんやご家族は、優先的にご検討ください。
第二に、同時接種です。インフルエンザワクチンと新型コロナワクチンの同時接種について、JAMA 誌のエビデンスレビューは、重篤な有害事象の有意な増加を認めなかったと報告しています(文献 6)。来院回数を減らせることは、ご高齢の方やお仕事で忙しい方にとって現実的なメリットです。当院では日曜・祝日も診療を行っており、平日の受診が難しい方にもご利用いただけます。
第三に、受診の目安です。発熱や咽頭痛、咳嗽が出現した際、インフルエンザとコロナを症状だけで鑑別することはできません。高熱が続く、息苦しさがある、胸が痛い、水分が摂れないといった症状は、肺炎や脱水を疑うサインです。当院は CT を備え、胸部画像による肺炎の評価を院内で完結できる体制を整えています。

おわりに ― 不確実さのなかで、確実にできること

今シーズンについて、確かなことと不確かなことを整理しておきましょう。確かなのは、北半球でインフルエンザの流行が約1か月早く立ち上がっていること、主役がH3N2からH1N1へ交代したこと、そのH1N1 に免疫をすり抜けやすい G155E 変異が高頻度で見つかっていること、そして若い世代ほど抗体が効きにくい可能性があることです(文献 1、2)。不確かなのは、この変異株が最終的に優勢となるのか、流行の規模がどれほどになるのかという点です。研究者自身が「まだ陽性検体数が少なく、予測するには早すぎる」と述べています(文献2)。
不確実さを前にして、私たちができる確実なことは何でしょうか。抗原性のズレがあってもワクチンが入院と死亡を減らしてきたという、繰り返し再現されたエビデンスに従うことです(文献 3、6、7)。そして、流行が早いのであれば接種も早める、という単純で合理的な調整を行うことです。新型コロナについても、PJ.2.1やSS.2といった新しい系統が動いている今だからこそ、重症化を防ぐ備えの価値は下がっていません(文献7、10)。
ウイルスは毎年、私たちの免疫の記憶の隙間を探して形を変えます。それでもどうぞお早めに、ワクチン接種をご検討ください。

FAQ ― よくあるご質問

Q1. 今年のワクチンは変異株に合っていないと聞きました。それでも打つ意味はありますか?

意味があります。2026/27 シーズンのワクチンは 2025 年の流行株を基に選定されており(文献4)、その後に広がったG155E変異とは一定のズレが生じている可能性があります。しかし昨シーズン、同様にワクチン株とのズレが指摘されたH3N2 subclade Kの流行下でも、英国の実測値で18歳未満の救急受診・入院に対して72〜75%、成人で32〜39%の有効率が維持されました(文献 3)。JAMA 誌の大規模レビューでも、高齢者で入院を 19.0〜43.0%、死亡を30.0〜65.8%減らしたと報告されています(文献6)。ワクチンは「感染をゼロにする盾」ではなく「重症化の確率を下げる保険」です。ズレは効果をいくらか削りますが、ゼロにはしません。

Q2. 接種はいつ受けるのがよいですか? 早すぎて効果が切れませんか?

今年は10月中の接種をお勧めします。例年、陽性率の立ち上がりは11月以降でしたが、今シーズンは約1か月前倒しになっており、9月の時点で既に上昇が始まっています(文献2)。抗体が立ち上がるまでに約2週間かかるため、流行の立ち上がりに間に合わせるには 10 月が適切です。効果の減衰を心配される方もいらっしゃいますが、米ジョンズ・ホプキンス大学の専門家も、例年の 10 月中旬〜下旬を待たずに前倒しで接種することを検討していると公表しています(文献 2)。流行が早い年は、接種も早めるのが合理的です。

Q3. 20 代の子どもは健康です。それでも接種は必要でしょうか?

今シーズンはむしろ優先度が高い年代です。G155E 変異を持つウイルスに対して中和抗体が効きにくかった血清は、おおむね 15〜25 歳の年齢層に集中していました(文献 1)。この世代は過去に類似の H1N1 に曝露された経験が乏しく、狙うべき抗体のレパートリーが薄いと考えられています(文献 2)。加えてこの年代は学校・職場・部活動などを通じて接触が多く、ご家庭の高齢者や基礎疾患をお持ちの方への橋渡しになりやすい立場です。ご本人の発症予防に加え、ご家族を守る意味でも接種をお勧めします。

Q4. 新型コロナのPJ.2.1やSS.2は、これまでの株より危険なのでしょうか?

現時点で「重症度が明確に上がった」というエビデンスはありません。PJ.2.1は25を超えるスパイク変異を持ち、ヒト ACE2 受容体への結合能が同時期の他の変異株を上回る一方、抗原性は JN.1 系統と近縁にとどまり、強い抗体逃避は示さないと報告されています(文献 10)。つまり広がりやすさの要因は、免疫のすり抜けよりも細胞への取りつきやすさにあると考えられます。国内では SS.2 が再拡大しており、地域差を伴って株構成が入れ替わっている状況です。重症化予防を目的としたワクチンの価値は変わらず、JAMA誌のレビューでは18歳以上の入院予防効果が19.5〜55%と報告されています(文献7)。

Q5. インフルエンザにかかっても、ゾフルーザやタミフルがあるので心配ないのでは?

治療薬は重要ですが、ワクチンの代わりにはなりません。ジュネーブ大学のグループがヒト気道上皮モデルとマウスで行った実験では、バロキサビル(ゾフルーザ)に対する感受性低下が4週間以内にPA遺伝子変異を伴って出現し、既存薬と新規化合物の併用でも耐性ウイルスの出現を防げませんでした(文献 5)。一方で治療薬には、4,000 人超の第 III 相試験で同居家族の感染オッズを 32%下げたという家庭内伝播抑制の価値もあります(文献 8)。「かからない工夫(ワクチン・手指衛生・換気)」と「かかったときに拡げない工夫(早期受診と治療)」は、両輪で考えるのが現実的です。

参考文献

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 Lanteri MC, Stone M, Spencer B, Greninger AL, Smith DJ, Wallace S, Marshall HS, Tosif
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2. Flu season could kick off ‘incredibly’ early — what scientists are watching. Nature
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3. Kirsebom FCM, Thompson C, Talts T, Kele B, Whitaker HJ, Andrews N, et al. Early
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5. Fage C, Loison S, Zwygart ACA, Poli R, Rosset S, Medaglia C, Hubert M, Suter-Boquete P,
 Vadas O, Huang S, Constant S, Silva P, Stellacci F, Clement S, Tapparel C. Influenza
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 bioRxiv. 2026 (preprint, not peer-reviewed). doi:10.64898/2026.09.03.749172



※本コラムは医学的情報の提供を目的としたものであり、個別の診断・治療を代替するものではありません。気になる症状がある方は医療機関にご相談ください。

記事監修者田場 隆介

医療法人社団 青山会 まんかいメディカルクリニック 理事長

医療法人社団青山会代表。兵庫県三田市生まれ、三田小学校、三田学園中学校・同高等学校卒業。 1997(平成9)年岩手医科大学医学部卒業、町医者。聖路加国際病院、淀川キリスト教病院、日本赤十字社医療センター、神戸市立医療センター中央市民病院を経て、2009(平成21)年医療法人社団青山会を継承。 2025年問題の主な舞台である地方の小都市で、少子高齢化時代の主役である子どもと高齢者のケアに取り組んでいる。

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