病気と健康の話

【蜂窩織炎】蜂窩織炎に注意

■皮膚の奥深くに広がる細菌感染症

侵襲性A群溶血性連鎖球菌感染

蜂窩織炎の中には、A群溶血性連鎖球菌(Group A Streptococcus: GAS)が血液や深部組織にまで入り込む「侵襲性GAS感染症(iGAS)」を引き起こすものがあります。特に小児や高齢者、水痘(水ぼうそう)罹患後の子どもでは発症率が高まります。重症例では壊死性筋膜炎や敗血症、毒素性ショック症候群に進行することもあり、致死率も無視できません。痛みや発熱が強い蜂窩織炎ではiGASの可能性も考慮し、早期診断と治療が重要です。最近の調査では、iGASによる小児蜂窩織炎の発症率が10年間で3倍以上に増加しており、注意が必要です。

膿痂疹(とびひ)との関係

膿痂疹は表皮の浅い感染症ですが、原因となるA群溶血性連鎖球菌や黄色ブドウ球菌が、傷口やアトピー性皮膚炎、虫刺されなどを通じて皮膚の深部に及ぶと蜂窩織炎へ進展する可能性があります。特に小児や高齢者では、皮膚バリアが弱いため注意が必要です。また、膿痂疹を掻き壊すことで感染が広がり、蜂窩織炎に進行することも報告されています。膿痂疹が繰り返し起きる方、アトピー性皮膚炎のある方は、日常的な皮膚の保湿や清潔管理、早めの治療が蜂窩織炎の予防にもつながります。

■診断

蜂窩織炎は主に問診と視診で診断されます。皮膚の赤み、熱感、腫れ、痛みといった炎症の四徴が特徴で、多くは下肢に片側性で生じます。発熱や悪寒、白血球増加、CRPやプロカルシトニンの上昇が見られる場合、全身性感染を伴っている可能性があります。必要に応じて血液培養、超音波検査、MRIなどを用いて、膿瘍や壊死性筋膜炎の鑑別を行います。ただし、原因菌の特定は困難なことが多く、症状の経過や治療反応を重視した診断が基本となります。

■治療法

蜂窩織炎の治療は、主に抗菌薬による薬物療法が中心です。軽症例ではペニシリン系やセフェム系の経口抗生物質が使用されますが、発熱や重症度が高い場合は入院のうえで点滴治療が行われます。GAS感染を想定し、ペニシリンに加えてクリンダマイシンを併用することで毒素産生を抑制できるとの報告もあります。また、膿瘍や壊死組織がある場合には外科的な切開・排膿も重要です。近年、再発を繰り返す方に対しては、慢性的なリンパ浮腫や皮膚疾患の管理が再発予防に有効とされています。

■予防法

蜂窩織炎は、皮膚のちょっとした傷や炎症がきっかけで発症するため、日常的な皮膚ケアが予防の基本です。とくに足の指の間の水虫(足白癬)や傷、むくみ(リンパ浮腫)のある方は要注意です。石鹸での洗浄後の保湿、爪の手入れ、清潔な靴下の着用などを心がけましょう。また、蜂窩織炎を繰り返す方には、予防的な抗菌薬投与(ペニシリン内服や筋注)が効果的とする研究もあります。ただし、耐性菌や副作用の懸念もあるため、医師と相談のうえ適切な判断が必要です。

参考文献

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  • Raff AB, Kroshinsky D. Cellulitis: A Review, JAMA. 2016;316(3):325-337.
  • Gunderson CG, Martinello RA. A systematic review of bacteremias in cellulitis and erysipelas. J Infect. 2012;64(2):148–155.
  • Bruun T, et al. Etiology of Cellulitis and Clinical Prediction of Streptococcal Disease: A Prospective Study. Open Forum Infect Dis. 2016;3(1):ofv181.

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