【糖尿病】歯みがきは「脳と血管」を守る習慣です―フロス・LDL・腸内環境からみる、代謝と心血管の健康寿命—
はじめに ― 毎日の歯みがきは、じつは血管の治療だった
毎晩の歯みがきを面倒と感じている方は少なくないと思います。しかし近年の研究は、口の中の手入れが、糖尿病はもちろん、脳梗塞や心臓の病気といった全身の健康と深く結びついていることを、次々と明らかにしています。歯ぐきの慢性的な炎症は、口の中だけにとどまらず、血液を介して全身の血管に影響を及ぼし、動脈硬化や不整脈のリスクを高めると考えられているのです。
2026 年、脳卒中領域で最も権威ある医学誌の一つ『Stroke』に、6200 人を約 24 年間追跡した大規模研究が発表されました(Sen et al., Stroke 2026)。この研究は、デンタルフロスを習慣にしている人は、そうでない人に比べて脳梗塞、とりわけ心臓由来の血栓が脳へ飛ぶ「心原性脳塞栓」や、その原因となる心房細動が少ないことを示しました。同じころ、米国心臓協会(AHA)は歯周病と動脈硬化性心血管疾患の関係についての公式声明を改訂し(Tran et al., Circulation 2025)、口腔ケアが循環器予防の一部として真剣に議論されるようになっています。
本コラムでは、「代謝(糖・脂質)」「心血管(心臓と血管)」という視点から、歯みがきという身近な習慣が持つ意味を、最新の欧米論文をもとにひもといていきます。あわせて、LDLコレステロールを「どれだけ長く低く保つか」という考え方、飽和脂肪酸から多価不飽和脂肪酸への置き換え、そして長鎖不飽和脂肪酸を主役にしながら腸内で短鎖脂肪酸をしっかり産生させる食生活まで、血管と代謝を守るための具体的な戦略を整理します。少し専門的な話も出てきますが、いずれも日々の暮らしに落とし込める内容ばかりです。歯ブラシとフォークを持つ手の先に健康寿命を延ばすヒントが隠れている ― そのことを、ご自身やご家族の健康を見直すきっかけにしていただければ幸いです。
1. 口の中の炎症は全身をめぐる ― 歯周病と動脈硬化の意外な回路
歯周病は、歯と歯ぐきのすき間(歯周ポケット)にすみついた細菌が慢性的な炎症を引き起こす病気で、成人が歯を失う最大の原因です。問題は、その炎症が口の中で完結しないことにあります。炎症を起こした歯ぐきの内側の面積は、広げるとかなりの広さになるといわれ、そこから細菌やその毒素(内毒素)、炎症性物質が繰り返し血液中へ入り込みます。これが全身に「くすぶるような炎症(慢性炎症)」を生み、動脈の壁を傷つける引き金になると考えられています。
2025 年に米国心臓協会(AHA)が発表した科学的声明では、歯周病が動脈硬化性心血管疾患(心筋梗塞や脳梗塞など)と関連する要因として位置づけられ、両者をつなぐ仕組みとして、全身の慢性炎症、血管内皮の機能低下、そして口腔細菌が動脈のプラーク(粥腫)内から検出されることなどが挙げられています(Tran et al., Circulation 2025)。血管の内側をおおう「血管内皮」は、血管を広げたり血栓を防いだりする司令塔のような役割を担っていますが、炎症が続くとこの機能が低下し、動脈硬化が進みやすくなります。
この因果関係を強く示したのが、2007 年に『New England Journal of Medicine(NEJM)』に掲載された介入試験です(Tonetti et al., NEJM 2007)。重度の歯周病患者に対して集中的な歯周治療を行ったところ、治療直後は炎症が一時的に高まるものの、その後は炎症が鎮まり、治療から数か月のうちに血管内皮機能が有意に改善していきました。つまり、歯ぐきの炎症を鎮めることが、血管そのものの働きを良くしうるということです。口腔ケアは「歯を守る」だけの行為ではなく、全身の血管を守るための医学的な意味を持つ ― これが、近年の循環器・歯科の共通認識になりつつあります。歯周病を「口の中だけの問題」と軽く見てはいけない理由が、ここにあります。
2. フロスが脳梗塞を減らした ― 6200 人・約 24 年の追跡が示したこと
歯みがきに加えて「フロス」を使う習慣に注目したのが、冒頭で触れた 2026 年の『Stroke』誌の研究です(Sen et al., Stroke 2026)。これは米国の 4 地域で行われた大規模疫学研究 ARIC(Atherosclerosis Risk in Communities)のデータを用いたもので、脳卒中の既往がない 6200 人を対象に、フロスの使用状況を調べ、中央値で 23.7 年という長期にわたって追跡しました。実に人生の四半世紀に迫る観察期間です。
参加者の 65%(4049 人)が定期的にフロスを使用していました。追跡期間中に 434 件の脳梗塞が発生しましたが、フロスを使う人の脳梗塞発症率は 6.1%で、使わない人の 8.7%より明らかに低いという結果でした。年齢・喫煙・高血圧・糖尿病・肥満といった心血管危険因子に加え、歯みがき習慣・歯科受診・歯周病・虫歯の有無まで統計的に調整してもなお、フロスの使用は脳梗塞のリスクを約 23%低下させていました(調整ハザード比 0.77、95%信頼区間 0.64〜0.96)。フロスをする人としない人の差が主体ではあるものの、頻度が増すほどリスクが下がる傾向も認められました(傾向性の検定で P=0.001)。
重要なのは、この効果が歯みがきや歯科受診とは独立して認められた点です。研究では、死亡を競合リスクとして扱う厳密な解析(調整ハザード比 0.79、95%信頼区間 0.63〜0.98)や、未測定の要因の影響を評価する E 値(1.87)による検討も行われ、結果は頑健でした。もちろん観察研究であるため「フロスをすれば必ず脳梗塞が防げる」と断定はできませんが、これだけの規模と期間で一貫した関連が示された意義は小さくありません。研究チームは、フロスによる恩恵の背景として、全身の炎症の低減、血管内皮機能の改善、動脈硬化の抑制、そして細菌が血中へ移行するのを防ぐこと、という複数の経路を推定しています。
3. 「心房細動」という黒幕 ― 心原性脳塞栓と口腔ケア
脳梗塞にはいくつかのタイプがあります。今回の研究(Sen et al., Stroke 2026)で最もはっきりとフロスの恩恵が現れたのは、「心原性脳塞栓」と呼ばれるタイプでした。これは心臓の中でできた血のかたまり(血栓)がはがれて脳の血管に詰まるもので、梗塞の範囲が広くなりやすく、後遺症も重くなりがちな、とりわけ怖い脳梗塞です。フロス使用者では、この心原性脳塞栓のリスクが 40%も低いという結果でした(調整ハザード比 0.60、95%信頼区間 0.38〜0.94)。
この心原性脳塞栓の最大の原因が「心房細動(しんぼうさいどう)」という不整脈です。心房が細かくふるえて規則正しく収縮しなくなるため、心臓の中で血液がよどんで血栓ができやすくなります。今回の研究では、フロスを使う人は心房細動の発症も少なく(調整ハザード比 0.88、95%信頼区間 0.77〜0.99)、フロスと脳梗塞の関連の一部(約 6.6%)が、この心房細動の減少によって説明されました。逆にいえば、残りの大部分は炎症や血管そのものへの作用など、別の経路によるものと考えられます。
なぜ口腔ケアが心房細動に関わるのでしょうか。近年、心房細動は「炎症が関与する病気」として理解されるようになってきました。慢性的な炎症は心房の筋肉にわずかな線維化(かたく変性すること)や電気的な乱れを引き起こし、不整脈が起こりやすい土台をつくります(Tran et al., Circulation 2025)。歯周病による持続的な炎症が、この土台づくりに一役買っている可能性があるのです。さらに心房細動は、動悸などの自覚症状がないまま進行することも多く、気づかないうちに脳梗塞の危険を高めていきます。だからこそ、日々の口腔ケアという「予防の入り口」を大切にする意味があります。歯ぐきの健康を保つことが、遠く離れた心臓のリズムを守り、ひいては脳を守る ― 一見無関係に思える点と点が、炎症という一本の線でつながっています。
4. 歯ぐきの健康は「代謝」の健康 ― 糖尿病と歯周病の双方向の関係
歯周病は心血管だけでなく、糖の代謝、すなわち糖尿病とも深く結びついています。両者は「双方向」の関係にあることが知られています。糖尿病があると免疫や血流の障害から歯周病が悪化しやすく、逆に歯周病による慢性炎症は、インスリンの効きめ(インスリン感受性)を悪くして血糖コントロールを乱します。歯周病は「糖尿病の第 6 の合併症」とも呼ばれてきました。実際、重度の歯周病がある人は、そうでない人に比べて将来の血糖悪化や糖尿病発症のリスクが高いことも報告されており、口と全身は私たちが思う以上に一つのシステムとしてつながっています。
この関係を治療の面から示したのが、2018 年に『Lancet Diabetes & Endocrinology』に掲載されたランダム化比較試験です(D’Aiuto et al., Lancet Diabetes Endocrinol 2018)。2 型糖尿病かつ歯周病のある患者を対象に、集中的な歯周治療を行った群と通常ケアの群を比較したところ、12 か月後、集中治療群では血糖の指標である HbA1c が有意に低下し、あわせて血管内皮機能や炎症マーカー、腎機能の指標も改善しました。歯ぐきの治療が、血糖の改善という全身への恩恵につながりうるという、印象的な結果です。
つまり、口腔ケアは「代謝の治療」という側面を持っています。血糖・血圧・脂質といった代謝の乱れは、それぞれが動脈硬化を進め、心臓や脳、腎臓の病気につながっていきますが、その上流に「口の中の炎症」という、自分の手で改善できる要因が存在するのです。歯みがきとフロス、そして定期的な歯科受診は、糖尿病や心血管病を持つ方にとって、食事・運動・服薬と並ぶ「もう一つの生活習慣ケア」と位置づけてよいでしょう。当院でも、糖尿病や高血圧で通院される方には、口腔ケアの重要性をあわせてお伝えしています。毎日の歯みがきは、じつは血糖管理の一部でもあるのです。
5. LDL は「どこまで下げたか」より「どれだけ長く低く保ったか」
血管を守るうえで、歯みがきと並んで欠かせないのがコレステロールの管理です。とくに悪玉と呼ばれる LDL コレステロールは、動脈硬化の中心的な原因です。ここで近年強調されているのが、「LDL は一時的にどこまで下げたか」だけでなく、「どれだけ長く低く保ったか」という累積(るいせき)の視点です。血管が生涯にわたって浴びる LDL の総量が、動脈硬化の進み方を決めるという考え方です。
2024 年に『Nature Reviews Cardiology』に発表された総説は、この「LDL 累積曝露(cumulative exposure)仮説」を体系的に整理しています(Ference et al., Nat Rev Cardiol 2024)。LDL が血管壁に与える害は、血中 LDL 濃度と、それにさらされる期間の「掛け算」で蓄積していきます。したがって、同じ数値でも早い時期から低く保った人ほど、生涯の動脈硬化リスクは小さくなります。遺伝的に LDL が生まれつき低い人が、生涯を通じて心筋梗塞をきわめて起こしにくいという遺伝疫学(メンデルランダム化)の知見も、この考え方を強く支持しています。
この視点は、日々の診療の考え方を変えます。「基準値をわずかに超えている程度だから、まだ様子見でよい」という判断が、長い目で見ると血管に余分な負担を積み重ねている可能性があるのです。逆に、生活習慣の改善や必要に応じた薬物療法によって、若いうちから LDL を適正な範囲で長く保つことは、将来の脳梗塞・心筋梗塞を減らす確かな投資になります。もちろん薬が必要かどうかは、年齢・他の危険因子・全体のリスクを踏まえて個別に判断すべきものです。とりわけ、家族性高コレステロール血症など生まれつき LDL が高い体質の方では、若いうちからの管理がいっそう重要になります。当院では頸動脈エコーや CT も活用しながら、その方に合ったコレステロール管理の目標を一緒に考えています。
6. 脂肪の「質」を変える ― 飽和脂肪酸から多価不飽和脂肪酸へ
LDL を長く低く保つうえで、食事の脂肪の「質」は大きな鍵を握ります。ポイントは、脂肪の総量を極端に減らすことよりも、種類を入れ替えることにあります。肉の脂身やバター、加工食品に多い「飽和脂肪酸」を、植物油や魚に多い「多価不飽和脂肪酸」に置き換えることが、心血管疾患を減らす方向にはたらくと考えられています。脂質は一律の「敵」ではなく、要は選び方の問題なのです。
この点について、質の高い証拠を提供しているのが、複数のランダム化比較試験を統合したコクラン・システマティックレビューです(Hooper et al., Cochrane Database Syst Rev 2020)。このレビューは、飽和脂肪酸の摂取を減らすこと、とりわけそれを多価不飽和脂肪酸に置き換えることで、心血管イベント(心筋梗塞や脳卒中など)がおよそ 2 割減少する傾向を示しました。「脂肪を減らす」ではなく「脂肪を置き換える」ことが、血管保護のうえで理にかなっているのです。一方で、飽和脂肪酸を白米や砂糖などの精製された糖質に置き換えても心血管の恩恵は乏しいことも分かっています。同じ「脂質を控える」でも、置き換える先を誤らないこと ― これが結果を大きく左右します。
とりわけ主役に据えたいのが、魚の脂に多く含まれる EPA・DHA といった長鎖不飽和脂肪酸(オメガ 3 系脂肪酸)です。世界 17 の前向き研究、4 万人以上を統合した解析では、血液中のオメガ 3 系脂肪酸の濃度が高い人ほど、総死亡・心血管死・がん死のいずれもが低いという一貫した関連が示されました(Harris et al., Nat Commun 2021)。青魚を中心に、オリーブオイルやナッツ、種実類などの良質な不飽和脂肪酸を日常的に取り入れること ― これが、現在の栄養学が心血管の健康寿命のために推奨する食べ方の土台です。サプリメントに頼る前に、まずは食卓の脂肪の質を見直すことが出発点になります。
7. 短鎖脂肪酸をつくりやすい腸内環境を ― 食物繊維という縁の下の力持ち
脂肪の質と並んで、もう一つ重視したいのが「腸内環境」です。長鎖不飽和脂肪酸を主役にしつつ、腸内でしっかりと「短鎖脂肪酸(たんさしぼうさん)」を産生できる食生活を目指すこと ― これが、代謝と血管の健康を支えるもう一つの柱になります。短鎖脂肪酸とは、腸内細菌が食物繊維を発酵・分解する過程でつくり出す酢酸・プロピオン酸・酪酸(らくさん)などの物質で、単なる老廃物ではなく、全身の健康を調整する重要なシグナルです。
2016 年に『Cell』誌に掲載された総説は、短鎖脂肪酸が「食物繊維と全身の生理をつなぐ鍵となる細菌代謝物」であることを整理しています(Koh et al., Cell 2016)。短鎖脂肪酸、とりわけ酪酸は、腸の粘膜細胞のエネルギー源となって腸のバリア機能を保ち、細菌や毒素が血中へ漏れ出す「リーキーガット(漏れる腸)」を防ぎます。さらに、食欲や血糖を調整するホルモンの分泌を促し、炎症を鎮め、血圧や脂質の調整にも関わることが分かってきました。腸内環境の乱れが全身の慢性炎症の火種になるという点で、第 1 章で述べた口腔の炎症とも通じる話です。
では、短鎖脂肪酸を増やすにはどうすればよいのでしょうか。答えは、その材料となる食物繊維を十分にとることです。野菜・果物・全粒穀物・豆類・海藻・きのこなどに含まれる食物繊維は、腸内細菌の「エサ」になります。世界的な大規模解析では、食物繊維の摂取量が多い人ほど、冠動脈疾患・脳卒中・2 型糖尿病・大腸がんによる死亡が少なく、1 日あたりの摂取量が多いほど恩恵が大きいことが示されています(Reynolds et al., Lancet 2019)。食物繊維は、水に溶ける水溶性のものと溶けない不溶性のものをバランスよく、加工度の低い食品から自然にとるのが理想です。青魚で良質な脂肪をとりつつ、多様な植物性食品で腸内細菌を育てる ― この二本立てが、現代の栄養学が勧める、血管と代謝にやさしい食のかたちです。
8. 実践 ― 歯みがき・食事・運動で「健康寿命」を延ばす
ここまで見てきた知見は、「単に長生きする」ことではなく、「介護を必要とせず、心身ともに健やかに過ごせる期間=健康寿命」を延ばすことにつながります。2025 年に『Nature Medicine』に発表された、10 万人以上を 30 年間追跡した研究は、中年期の食生活が、その後の健康的な老いを左右することを示しました(Tessier et al., Nat Med 2025)。野菜・果物・全粒穀物・不飽和脂肪酸・ナッツ・豆類を多くとり、加工肉・砂糖入り飲料・過剰な塩分やトランス脂肪酸を控える食事パターンをとっていた人ほど、70 歳を病気なく、認知機能や身体機能を保って迎える確率が高かったのです。
本コラムの内容は、いくつかの実践に集約できます。第一に、毎日の歯みがきに加えてフロスを習慣にし、定期的に歯科を受診して歯ぐきの炎症を抑えること(Sen et al., 2026;Tran et al., 2025)。第二に、LDL コレステロールを若いうちから適正な範囲で「長く低く」保つこと(Ference et al., 2024)。第三に、飽和脂肪酸を多価不飽和脂肪酸へ置き換え、青魚などの長鎖不飽和脂肪酸を主役にすること(Hooper et al., 2020;Harris et al., 2021)。第四に、食物繊維を豊富にとって腸内で短鎖脂肪酸をしっかり産生させること(Koh et al., 2016;Reynolds et al., 2019)。いずれも特別な道具は要らず、今日から始められる習慣です。
これらの生活習慣に加えて、定期的な運動が独立して脳梗塞のリスクを下げることも、今回のARIC 研究の中で確認されています(Sen et al., 2026)。歯ブラシ、食卓、そして運動 ― 三つの身近な習慣が、それぞれ別の経路から血管と代謝を守り、健康寿命を押し上げます。当院では、CT や超音波による血管の評価、血液検査による脂質・血糖・炎症の把握に加え、運動療法や生活指導を通じて、こうした取り組みを総合的にサポートしています。日曜・祝日も診療を行い、救急救命士が常駐する体制で、皆さまの「長く元気に過ごす」を支えます。
おわりに ― 小さな習慣が、脳と心臓の未来を変える
デンタルフロス、コレステロールの管理、脂肪の質、そして腸内環境 ― 一見ばらばらに見えるこれらのテーマは、「慢性炎症を抑え、血管をしなやかに保つ」という一点で深くつながっています。6200 人を約 24 年追った研究がフロスと脳梗塞・心房細動の関連を示し(Sen et al., Stroke 2026)、10 万人を 30 年追った研究が食生活と健康的な老いの関連を示した (Tessier et al., Nat Med 2025)ように、日々の小さな選択の積み重ねが、数十年後の脳と心臓の姿を静かに形づくっていきます。
大切なのは、完璧を目指すことよりも、続けられる習慣を今日から一つ始めることです。夜のフロスを一本、食卓の油を見直す一皿、いつもより一駅分の歩き ― その積み重ねが、将来の脳梗塞や心筋梗塞を遠ざけ、健康寿命を延ばします。気になる症状のある方はもちろん、「まだ元気だから」という方こそ、一度ご自身の血管と代謝の状態を確かめてみませんか。まんかいメディカルクリニックは、検査から生活指導まで、皆さまの健康づくりを一緒に考えてまいります。
FAQ ― よくあるご質問
Q1. 歯みがきをしっかりしていれば、フロスは使わなくても大丈夫ですか?
歯ブラシだけでは、歯と歯のすき間の汚れ(歯間部のプラーク)を十分に落としきれません。フロスはこの部分の細菌を減らし、歯ぐきの炎症を抑えます。6200 人を約 24 年追跡した研究では、歯みがきや歯科受診の有無を統計的に調整してもなお、フロスを使う人は脳梗塞が約 23%少ないという結果でした(Sen et al., Stroke 2026)。歯ブラシとフロスは役割が異なる「両輪」と考え、できれば 1 日 1 回、就寝前にフロスを取り入れることをおすすめします。
Q2. コレステロールは基準値を少し超えている程度なら、放っておいてよいですか?
「今の数値」だけでなく「どれだけ長くその値で過ごすか」が重要です。血管が生涯に浴びる LDL の総量が動脈硬化を進めるため、軽度の高値でも長年続けば負担が蓄積します(Ference et al., Nat Rev Cardiol 2024)。ただし、薬が必要かどうかは年齢や他の危険因子を含めた全体のリスクで判断すべきもので、一律ではありません。まずは食事・運動などの生活改善から始め、必要に応じて医師と相談しながら管理していくのが現実的です。
Q3. 血管のためには、脂っこいものを完全に避けるべきですか?
脂肪を「ゼロにする」必要はなく、「質を入れ替える」ことが大切です。肉の脂身やバターに多い飽和脂肪酸を、植物油や魚に多い多価不飽和脂肪酸に置き換えると、心血管イベントが約 2 割減る傾向が示されています(Hooper et al., Cochrane 2020)。とくに青魚の EPA・DHA など長鎖不飽和脂肪酸は、血中濃度が高い人ほど死亡リスクが低いと報告されています(Harris et al., Nat Commun 2021)。良質な脂肪はむしろ積極的にとりたい栄養素です。
Q4. 「腸内環境を整える」とよく聞きますが、具体的に何をすればよいですか?
鍵は、腸内細菌のエサになる食物繊維を十分にとることです。野菜・果物・全粒穀物・豆類・海藻・きのこなどに含まれる食物繊維は、腸内で発酵して短鎖脂肪酸(酪酸など)を生み出し、腸のバリアを守り、炎症を鎮め、血糖や血圧の調整を助けます(Koh et al., Cell 2016)。食物繊維の摂取が多い人ほど心臓病や脳卒中、糖尿病が少ないことも大規模研究で示されています(Reynolds et al., Lancet 2019)。多様な植物性食品を、毎食少しずつ取り入れるのがコツです。
Q5. 糖尿病があります。歯の治療は血糖にも関係しますか?
はい、深く関係します。糖尿病と歯周病は互いに悪化させ合う関係にあり、歯周病の炎症はインスリンの効きめを悪くして血糖を乱します。2 型糖尿病かつ歯周病のある方に集中的な歯周治療を行った試験では、12 か月後に HbA1c が有意に低下し、血管内皮機能や炎症の指標も改善しました(D’Aiuto et al., Lancet Diabetes Endocrinol 2018)。歯科治療は、食事・運動・服薬と並ぶ大切な「血糖ケア」の一つです。糖尿病で通院中の方は、あわせて歯科受診もご検討ください。
参考文献
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- Tran D, et al. Periodontal Disease and Atherosclerotic Cardiovascular Disease: A Scientific Statement From the American Heart Association. Circulation. 2025. https://doi.org/10.1161/CIR.0000000000001390
- Tonetti MS, D’Aiuto F, Nibali L, et al. Treatment of Periodontitis and Endothelial Function. N Engl J Med. 2007;356(9):911-920. https://doi.org/10.1056/NEJMoa063186
- D’Aiuto F, Gkranias N, Bhowruth D, et al. Systemic effects of periodontitis treatment in patients with type 2 diabetes: a 12 month, single-centre, investigator-masked, randomised trial. Lancet Diabetes Endocrinol. 2018;6(12):954-965. https://doi.org/10.1016/S2213-8587(18)30038-X
- Ference BA, Braunwald E, et al. The LDL cumulative exposure hypothesis: evidence and practical applications. Nat Rev Cardiol. 2024;21(10):701-716. https://doi.org/10.1038/s41569-024-01039-5
- Tessier AJ, Wang F, Ardisson Korat AV, et al. Optimal dietary patterns for healthy aging. Nat Med. 2025;31. https://doi.org/10.1038/s41591-025-03570-5
- Hooper L, Martin N, Jimoh OF, et al. Reduction in saturated fat intake for cardiovascular disease. Cochrane Database Syst Rev. 2020;(8):CD011737. https://doi.org/10.1002/14651858.CD011737.pub3
- Harris WS, Tintle NL, Imamura F, et al. Blood n-3 fatty acid levels and total and cause-specific mortality from 17 prospective studies. Nat Commun. 2021;12:2329. https://doi.org/10.1038/s41467-021-22370-2
- Koh A, De Vadder F, Kovatcheva-Datchary P, Backhed F. From dietary fiber to host physiology: short-chain fatty acids as key bacterial metabolites. Cell. 2016;165(6):1332-1345. https://doi.org/10.1016/j.cell.2016.05.041
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※本コラムは医学的情報の提供を目的としたものであり、個別の診断・治療を代替するものではありません。
気になる症状がある方は医療機関にご相談ください。
記事監修者田場 隆介
医療法人社団 青山会 まんかいメディカルクリニック 理事長
医療法人社団青山会代表。兵庫県三田市生まれ、三田小学校、三田学園中学校・同高等学校卒業。 1997(平成9)年岩手医科大学医学部卒業、町医者。聖路加国際病院、淀川キリスト教病院、日本赤十字社医療センター、神戸市立医療センター中央市民病院を経て、2009(平成21)年医療法人社団青山会を継承。 2025年問題の主な舞台である地方の小都市で、少子高齢化時代の主役である子どもと高齢者のケアに取り組んでいる。
