【生活習慣】熱い一杯はリスク 3 倍―100 万人データが示した「食道がんの地図の塗り替わり」と、いまからできる予防―
はじめに ―「熱いうちに」飲んでいませんか
熱々のお味噌汁やおでんを口へ運ぶ。日本人にとってごく自然なこの習慣は、食道がんのリスクと結びつきます。2026 年、オックスフォード大学の Papier らが英国の二大コホート(Million Women Study と UK Biobank)に登録された 97 万 7282 人を平均 11〜14 年追跡した結果を International Journal of Cancer 誌に発表しました。「とても熱い」状態で飲むと答えた人は、「ぬるい」と答えた人に比べ、食道扁平上皮がんの発症リスクが 3.17 倍(95%信頼区間 2.49〜4.03)に達していました。
一方で、同じ 2026 年 9 月に New England Journal of Medicine 誌に掲載された Xie、Smyth、Lagergren による総説は、まったく別の変化を描き出しています。欧米では従来主流だった扁平上皮がんが激減し、代わりに逆流と肥満を背景とする腺がんが急増して、いくつかの集団では主役が入れ替わってしまった。食道がんという一つの病名の下で、実はまったく由来の異なる二つの病気の勢力図が塗り替わっています。
食道がんは世界のがん死亡原因の第 7 位を占め、年間およそ 50 万人の命を奪っています。5年生存率は近年改善したとはいえ 20%を超えることはまれです。しかし裏を返せば、この病気の主要な危険因子はいずれも遺伝子ではなく生活習慣であり、今日から手をつけられるものばかりだということでもあります。本コラムでは、添付した最新の 5 論文と欧米の権威ある 7 つのエビデンスをもとに、食道がんのトレンドがどう変化し、その変化を踏まえて私たちが何をすべきかを整理します。
1. 食道がんは「二つの別の病気」 ― 扁平上皮がんと腺がん
はじめに押さえていただきたいのは、食道がんが単一の病気ではないという事実です。NEJM2026 年の総説は、扁平上皮がん(squamous cell carcinoma)と腺がん(adenocarcinoma)を「別個の疾患単位として扱うべきである」と明言しています。両者は発生する場所も、原因も、治療への反応も異なるからです。
扁平上皮がんは、食道の内側を覆う扁平上皮という「皮膚に似た粘膜」から発生し、主に頸部から胸部中央にかけて生じます。喫煙と飲酒が最大の原因で、世界の食道がんの 85%を占め、東アジアや東アフリカに集中しています。これに対して腺がんは、食道の最下端、胃とのつなぎ目付近の腺細胞から発生します。慢性的な胃酸の逆流によって扁平上皮が円柱上皮に置き換わる「バレット食道」が前がん病変であり、成人人口の 1〜2%に存在すると推定されています。
この違いは予防を考えるうえで決定的です。NEJM の総説が掲載する危険因子一覧表によれば、飲酒は扁平上皮がんのリスクを高める一方、腺がんとは関連がありません。逆に肥満と胃食道逆流症は腺がんのリスクを高めますが、扁平上皮がんには当てはまりません。ヘリコバクター・ピロリ感染に至っては、胃酸分泌を低下させるため腺がんのリスクをむしろ下げるという逆相関が報告されています。つまり「食道がんの予防」と一括りにせず、自分がどちらのリスクを負っているのかを見極めることが出発点になります。
2. 塗り替わる地図 ― 欧米で起きた「主役の交代」
NEJM 2026 年の総説が示す米国 SEER プログラムのデータは劇的です。白人男性における食道腺がんの罹患率は、1975 年には人口 10 万人あたり 1 例に満たなかったものが、2000 年代には 4 例を超える水準まで上昇しました。約 40 年で 4〜6 倍という増加です。同じ期間、黒人男性の扁平上皮がんは 10 万人あたり 18 例前後から 2 例程度へと激減しました。結果として、いくつかの欧米集団では腺がんが扁平上皮がんを上回る主要組織型となっています。
増加の背景にあるのは、喫煙率の低下と、それを上回る速度で進んだ肥満と胃食道逆流症の蔓延です。禁煙運動は扁平上皮がんを確実に減らしました。しかし同時に社会が太り、逆流症状を抱える人が増えたことで、腺がんという別の入り口が大きく開いてしまった。予防医療の成功と失敗が、同じ臓器の上で同時に進行したと言い換えることもできます。
世界全体で見れば、IARC(国際がん研究機関)の Bray らが 2024 年に CA: A Cancer Journal for Clinicians 誌に発表した GLOBOCAN 2022 の推計では、2022 年に世界で 2000 万人が新たにがんと診断され、970 万人が亡くなりました。そのなかで食道がんはがん死亡の上位に位置し続けています。日本を含む東アジアでは依然として扁平上皮がんが多数派ですが、食生活の欧米化と肥満人口の増加を考えれば、欧米で起きた「主役の交代」が数十年遅れで日本にも波及する可能性は十分にあります。いま欧米のデータを読む意味は、そこにあります。
3. 98 万人が示した「温度」というリスク ― 3.17 倍という数字の重
み
熱い飲み物と食道がんの関係は、これまでイランや南米、東アフリカといった、70℃前後の非常に熱いお茶やマテ茶を飲む地域の研究が中心でした。IARC は 2016 年、「65℃を超える非常に熱い飲料」を発がん性が疑われるグループ 2A に分類しています。しかし欧米や日本のように、60℃前後で飲むのが一般的な集団でも同じことが言えるのかは、長らく未解決の問いとして残されていました。
この問いに答えたのが、Papier らの 2026 年の研究です。97 万 7282 人の追跡中に 2348 例の食道がん(扁平上皮がん 1045 例、腺がん 1303 例)が発生しました。飲み物の温度を「ぬるい」「熱い」「とても熱い」の三段階で自己申告してもらったところ、扁平上皮がんのリスクは温度に沿ってきれいに上昇しました。「熱い」で 1.69 倍、「とても熱い」で 3.17 倍(いずれも飲用杯数で補正後)。しかも腺がんでは 0.92 倍と、まったく関連が見られませんでした。
扁平上皮細胞は食道の上部三分の二を覆っており、熱い液体の直撃を最も受ける細胞である――この解剖学的な説明と結果が見事に一致しています。
さらに注目すべきは、温度とは独立して「杯数」もリスクを高めていた点です。温度で補正したうえで 1 日 6 杯以上の人は 6 杯未満の人に比べ扁平上皮がんが 1.71 倍(1.51〜1.94)でした。喫煙や飲酒で補正しても結果は変わらず、非喫煙者・少量飲酒者に限っても同様の傾向が認められています。著者らは、英国人が「とても熱い」を「熱い」程度に下げるだけで扁平上皮がんの 14%、年間 440 例が予防できると試算しました。牛乳を入れるかどうかでは結果が変わらなかったことから、原因は成分ではなく熱そのもの、すなわち粘膜の熱傷害だと考えられています。
4. コーヒーそのものは悪者か ― 「温度」と「中身」を切り分ける
ここで多くの方が気になるのが、「ではコーヒーやお茶をやめるべきなのか」という点でしょう。現時点のエビデンスは、「飲み物の種類ではなく温度が問題」という方向を強く支持しています。Zhao らが 2026 年に Journal of Gastrointestinal Oncology 誌に発表したメタ解析は、22 研究・177 万 5988 人(症例 7124 例)を統合し、コーヒー摂取と食道がんリスクの間に統計学的に有意な関連はないと報告しました。コホート研究の統合ハザード比は0.87(0.74〜1.03)、症例対照研究の統合オッズ比は 1.02(0.77〜1.35)で、いずれも有意差に届いていません。
むしろコーヒーの成分そのものには、防御的に働く可能性が指摘されています。Sanlier とOzler が 2026 年の Current Nutrition Reports 誌にまとめた総説によれば、コーヒーに含まれる 1000 種類を超える生理活性物質、とりわけクロロゲン酸、カフェイン、カフェストール、カーウェオール、トリゴネリンには抗酸化・抗炎症・抗血管新生作用があります。実験レベルでは、クロロゲン酸が EGFR/p-AKT/Snail 経路を介して食道扁平上皮がん細胞の運動能を抑え、BMI1 や SOX2 の発現を低下させて増殖を抑制することが示されています。同総説は同時に、高温で飲めば粘膜が刺激され、反応性窒素種を経てニトロソアミンという強力な発がん物質が生成されうるとも警告しています。
部位によって答えが変わる点も重要です。Alqutub らが 2026 年に European Journal of Cancer Prevention 誌に発表した 30 研究のメタ解析では、コーヒーを 1 日 3 杯以上飲む人の頭頸部がん全体のリスクはオッズ比 0.78(0.72〜0.86)と低く、口腔がん 0.71、咽頭がん0.80 と保護的でした。ところが喉頭がんだけは 1.13(1.04〜1.24)と逆にリスクが上昇していたのです。喉頭は熱い液体や蒸気が通過する経路にあたります。つまり同じコーヒーでも、成分が届く先と熱が届く先とで結果が分かれる。「コーヒーは体に良いか悪いか」という問いの立て方そのものが、すでに古いのかもしれません。
5. 酒とタバコ ― 最大の、そして最も減らせるリスク
温度の話題に隠れがちですが、扁平上皮がんの二大原因は依然として喫煙と飲酒です。NEJM2026 年の総説によれば、現在喫煙している人の扁平上皮がんリスクは非喫煙者のおよそ 4 倍、腺がんでもおよそ 2 倍に上ります。重要なのは、禁煙すると扁平上皮がんのリスクが時間依存性に低下していくという点です。腺がんでは禁煙の効果が限定的であるのとは対照的で、「いま吸っている人がやめること」に明確な見返りがある病気だと言えます。
飲酒については、2025 年 1 月に米国公衆衛生局長官(Surgeon General)が発表した勧告「Alcohol and Cancer Risk」が、社会に大きな衝撃を与えました。この勧告は、アルコールが食道を含む少なくとも 7 種類のがんの原因であり、米国では年間およそ 10 万件のがん罹患と約 2 万人のがん死亡がアルコールに起因すると明示しています。喫煙、肥満に次ぐ「予防可能ながんの第 3 の原因」という位置づけです。にもかかわらず、米国民の半数以下しかこの関連を知らないという認知の乖離も指摘されました。
アルコールが食道にとって危険な理由は、代謝産物であるアセトアルデヒドにあります。これは発がん性が確立した物質で、日本人を含む東アジア人の相当数が持つとされるアルデヒド脱水素酵素 2 型(ALDH2)の低活性型では、体内に長く留まります。少量の飲酒で顔が赤くなる、いわゆるフラッシング反応のある方が飲酒習慣を続けると、食道扁平上皮がんのリスクが高まることは古くから知られてきました。熱い飲み物と同様、これも「体質だから仕方がない」ではなく「体質だからこそ量を減らす価値が大きい」と読むべき情報です。
6. 逆流と肥満 ― 腺がんを生む「もう一つの経路」
腺がんの側に目を移しましょう。NEJM 2026 年の総説は、胸やけや呑酸といった症状を繰り返す胃食道逆流症が腺がんの主要な危険因子であり、しかもリスクが高いのは内視鏡で粘膜のただれ(びらん性食道炎)が確認される人であって、症状だけで粘膜に異常のない非びらん性逆流症では明確な上昇が見られない、という重要な区別を示しています。長く続くびらん性の逆流がバレット食道を生み、そこから低異形度・高異形度異形成を経て腺がんへ進む。これが腺がんの標準的な発がん経路です。
もう一つの柱が肥満、とりわけ内臓脂肪です。BMI が高いほど腺がんリスクは段階的に上昇します。興味深いのは、この関連が逆流を介した経路だけでは説明しきれないことで、内臓脂肪がもたらす全身性の炎症と代謝の変化そのものが発がんに寄与すると考えられています。
減量の効果を示す最も強いデータの一つが、Zhu らが 2024 年に Obesity Surgery 誌に発表した 14 のコホート研究のメタ解析です。減量手術を受けた人では食道腺がんのリスクが 31%低下していました。体重を落とすことが、少なくとも一部の人で腺がんを減らしうることを示唆する結果です。
薬剤による減量が同じ効果をもたらすかは、まだ検証の途上にあります。ただし Dai らが2025 年に JAMA Oncology 誌に発表した研究では、肥満のある成人 4 万 3317 人の GLP-1 受容体作動薬使用者と同数の非使用者を比較したところ、がん全体の発症率は 1000 人年あたり13.6 対 16.4、ハザード比 0.83(0.76〜0.91)と使用群で有意に低いという結果が得られています。食道がんに限った効果はまだ確立していませんが、肥満が腺がんの主要因である以上、体重と内臓脂肪を適正化する介入がこの領域で果たす役割は今後さらに大きくなるでしょう。
当院でも内臓脂肪を InBody と CT で数値化し、運動療法と GLP-1 関連治療を組み合わせた減量プログラムを行っています。
7. 早期発見
予防と同じくらい大切なのが、早期に見つけることです。NEJM 2026 年の総説が引用する米国のデータによれば、食道がんと診断された時点で限局期にとどまっているのはわずか 19%で、32%が所属リンパ節へ、39%が遠隔臓器へ広がっています。5 年相対生存率は限局期48.7%、所属リンパ節転移期 28.4%に対し、遠隔転移期はわずか 5.4%です。嚥下困難や体重減少といった典型的な症状は、腫瘍が大きくなってから初めて現れます。症状を待っていては遅いのです。
しかも腺がん患者の約半数は、つらい逆流症状を自覚していません。そのため現行のガイドラインでは、50 歳以上で長年の逆流症状に加えて他の危険因子(男性、肥満、喫煙歴、家族歴など)を併せ持つ方に内視鏡による検診が推奨されています。バレット食道が見つかった場合の管理については、2025 年に Gastroenterology 誌に掲載された米国消化器病学会(AGA)の診療ガイドラインが、高解像度白色光内視鏡に色素内視鏡を併用すること、1cm 未満のごく短い円柱上皮領域では腫瘍所見がなければ定期サーベイランスを行わないこと、進行予防にはプロトンポンプ阻害薬の毎日投与を優先することなどを推奨し、「一律の間隔」からリスクに応じた個別化へと舵を切りました。扁平上皮がんの側では、ルゴール液を用いた色素内視鏡で不染帯を探す手法が早期病変の検出感度を高めることが知られています。
検査法そのものも変わりつつあります。Tan らが 2025 年に Lancet 誌に報告した英国 13 施設・910 例の前向き研究では、糸のついたカプセルを飲み込んで食道の細胞を採取する「カプセルスポンジ」検査にバイオマーカー(異型細胞と p53 異常)を組み合わせることで、患者を低リスク 54%、中リスク 31%、高リスク 15%に層別化できました。低リスク群で高度異形成またはがんが見つかったのはわずか 0.4%(陰性的中率 97.8%)である一方、異型細胞と p53 異常の両方を持つ群のリスクは低リスク群の 135.8 倍に達しました。内視鏡に代わるのではなく、「内視鏡を誰に優先すべきか」を絞り込む道具として実用段階に入りつつあります。
8. いまからできる予防 ― 今日、変えられる 7 つのこと
- 飲み物の温度を下げること。Papier らの試算では、「とても熱い」を「熱い」程度に下げるだけで扁平上皮がんの 14%が予防可能でした。湯を注いでから数分待つ、牛乳や水を加える、少し冷ました器に移す――いずれも今日から実行できます。
- 熱い飲み物の杯数を見直すこと。温度とは独立して、1 日 6 杯以上で 1.71 倍というリスク上昇が示されています。
- 禁煙。扁平上皮がんのリスクは禁煙後、時間とともに確実に下がります。
- 禁酒。米国公衆衛生局長官勧告(2025 年)が示すとおり、アルコールは予防可能ながんの第 3 の原因であり、とりわけ飲酒で顔が赤くなる方は量を減らす意義が大きいと考えられます。
- 体重と内臓脂肪の管理。減量手術後に食道腺がんが 31%減少したという Obesity Surgery誌 2024 年のメタ解析は、減量が腺がん予防になりうることを示しています。
- 逆流性食道炎を放置しないこと。AGA の 2025 年ガイドラインはバレット食道の進行予防としてプロトンポンプ阻害薬の毎日投与を推奨しており、英国の AspECT 試験(Lancet 2018年)でも高用量プロトンポンプ阻害薬、さらにアスピリン併用が死亡・腺がん・高度異形成の複合エンドポイントを改善する可能性が示されました(ただしアスピリンは出血リスクを伴うため、適応は医師との相談が必須です)。
- 適切な内視鏡検査を受けること。50 歳以上で長年の胸やけがある方、喫煙・飲酒歴の長い方、肥満のある方は、症状の有無にかかわらず一度は上部消化管内視鏡を検討する価値があります。野菜と果物の摂取が少ないこと、ビタミン B6・B12 の摂取不足も食道がんリスクとの関連が指摘されていますが、NEJM 2026 年の総説はこれらの栄養学的エビデンスはなお決定的ではないと慎重に述べています。確実性の高い介入から順に手をつける――それが、限られた労力を最も効率よくリスク低減に変える方法です。
おわりに ―自分の行動に変える
食道がんは二つの顔を持ち、その勢力図はいま静かに塗り替わっています。欧米では喫煙率の低下とともに扁平上皮がんが減り、肥満と逆流の増加とともに腺がんが 4〜6 倍に増えました。そして 2026 年、97 万人規模の英国コホートが、日常のごく些細な習慣である「飲み物の温度」が扁平上皮がんのリスクを 3 倍に押し上げることを明らかにしました。コーヒーやお茶という飲み物そのものが悪いのではなく、熱が粘膜を傷つけるのだという理解は、私たちに具体的な行動の余地を与えてくれます。
温度を下げる。杯数を減らす。たばこをやめる。お酒を控える。体重と内臓脂肪を落とす。逆流を治療する。そして節目で内視鏡を受ける。どれも特別な技術を要しない、今日から始められることばかりです。5 年生存率が 20%を超えにくいこのがんにおいて、限局期で見つかれば 5 年生存率は 48.7%まで上がります。予防と早期発見の価値が、これほど明瞭に数字で示される病気も多くありません。
まんかいメディカルクリニックでは、CT と超音波による内臓脂肪・全身評価、InBody による体組成測定、GLP-1 関連治療と運動療法を組み合わせた減量プログラム、禁煙・節酒の支援をしています。日曜・祝日も診療を行っており、平日の受診が難しい方にもご利用いただけます。どうぞお早めにご相談ください。
FAQ ― よくあるご質問
Q1. コーヒーやお茶は、食道がんのために控えたほうがよいのでしょうか?
飲み物の種類よりも温度が問題です。Zhao らが 2026 年に Journal of GastrointestinalOncology 誌に発表した 22 研究・177 万人のメタ解析では、コーヒー摂取と食道がんリスクに有意な関連は認められませんでした(コホート研究の統合ハザード比 0.87、95%信頼区間 0.74〜1.03)。一方で Papier らの 2026 年の英国 98 万人コホートでは、「とても熱い」温度で飲む習慣が扁平上皮がんのリスクを 3.17 倍にしていました。Sanlier と Ozlerの 2026 年の総説も、コーヒーに含まれるクロロゲン酸などに抗酸化・抗がん作用がある一方、高温で飲めば粘膜刺激からニトロソアミン生成につながりうると指摘しています。やめる必要はありません。少し冷ましてから飲んでください。
Q2. 「熱い」とは具体的に何度くらいからですか?
IARC(国際がん研究機関)は 2016 年に「65℃を超える非常に熱い飲料」を発がん性が疑われるグループ 2A に分類しました。ただし Papier らの 2026 年の研究は、この 65℃という線引きが生物学的な閾値ではなく評価上の便宜的な区切りにすぎないと述べています。
英国や米国で飲まれる紅茶・コーヒーの実測温度はおよそ 60℃とされますが、その範囲でも温度が高いほどリスクが高い傾向がきれいに認められました。つまり「65℃以下なら安全」ではなく、「低いほど良い」と考えるのが現時点では妥当です。目安としては、唇をつけて熱さを我慢する必要がない温度、湯を注いでから数分おいた状態を心がけてください。
Q3. 胸やけがありますが、症状が軽ければ内視鏡は不要でしょうか?
症状の強さとリスクは必ずしも一致しません。NEJM 2026 年の総説は、食道腺がん患者の約半数がつらい逆流症状を自覚していなかったと報告しています。また同総説は、リスクが高いのは内視鏡でびらん(ただれ)が確認される逆流性食道炎であって、症状だけで粘膜がきれいな非びらん性逆流症では明確なリスク上昇が見られないことも示しました。
つまり症状の有無だけでは判断できず、粘膜を見ないとわからないということです。50歳以上で長年の逆流症状があり、男性・肥満・喫煙歴などの危険因子を併せ持つ方は、一度内視鏡検査をご検討ください。
Q4. 減量すれば、本当に食道がんのリスクは下がりますか?
腺がんについては、そのことを支持するデータがあります。Zhu らが 2024 年に Obesity Surgery 誌に発表した 14 コホート研究のメタ解析では、減量手術後に食道腺がんのリスクが 31%低下していました。また Dai らが 2025 年に JAMA Oncology 誌に報告した肥満成人8 万 6632 人の解析では、GLP-1 受容体作動薬使用者のがん全体の発症リスクがハザード比0.83(0.76〜0.91)と低下しています。ただし食道がんに限った効果はまだ確立していません。なお扁平上皮がんでは肥満との逆相関が観察されていますが、これは未発見のがんによる体重減少が影響している可能性があり、因果関係は不確実だと NEJM 2026 年の総説は注意を促しています。
Q5. 内視鏡以外に、食道がんを調べる方法はありますか?
研究段階から実用段階へ移りつつある方法があります。Tan らが 2025 年に Lancet 誌に発表した英国 13 施設・910 例の前向き研究では、糸のついたカプセル型スポンジを飲み込んで食道細胞を採取し、異型細胞と p53 異常というバイオマーカーで層別化したところ、低リスクと判定された群(全体の 54%)で高度異形成またはがんが見つかったのはわずか0.4%、陰性的中率は 97.8%でした。逆に両方の異常を持つ群のリスクは低リスク群の
135.8 倍でした。現時点では内視鏡に置き換わるものではなく、「誰に内視鏡を優先するか」を絞り込む役割が期待されています。確定診断にはやはり内視鏡と生検が必要です。
参考文献
- Xie SH, Smyth E, Lagergren J. Esophageal Cancer. N Engl J Med. 2026;395(11):1100-1111.
doi:10.1056/NEJMra2516631 - Papier K, Gaitskell K, Floud S, Reeves GK. Hot Drinks and Oesophageal Cancer:
Prospective Analyses in Around 1 Million UK Adults. Int J Cancer. 2026 (published
online). doi:10.1002/ijc.70654 - Zhao Y, Cai Z, Zhang J. The association between coffee consumption and esophageal
cancer risk: a systematic review and meta-analysis of current observational evidence.
J Gastrointest Oncol. 2026;17(4):205. doi:10.21037/jgo-2026-0327 - Sanlier N, Ozler E. Coffee Consumption and Its Potential Implications for Digestive
Tract Carcinogenesis. Curr Nutr Rep. 2026;15:41. doi:10.1007/s13668-026-00760-6 - Alqutub A, Awadh MA, Alsulami OA, et al. Coffee consumption and head and neck cancer
risk: a dose-response and site-specific meta-analysis. Eur J Cancer Prev. 2026
(published online). doi:10.1097/CEJ.0000000000001012 - Bray F, Laversanne M, Sung H, et al. Global cancer statistics 2022: GLOBOCAN estimates
of incidence and mortality worldwide for 36 cancers in 185 countries. CA Cancer J
Clin. 2024;74(3):229-263. doi:10.3322/caac.21834 - Wani S, Zhou M, Sawas T, et al. AGA Clinical Practice Guideline on Surveillance of
Barrett’s Esophagus. Gastroenterology. 2025;169(6):1184-1231. - Tan WK, Ross-Innes CS, Somerset T, et al. Biomarker risk stratification with capsule
sponge in the surveillance of Barrett’s oesophagus: prospective evaluation of UK
real-world implementation. Lancet. 2025;406(10500):271-282. doi:10.1016/S0140-
6736(25)01021-9 - Zhu C, Liu W, Hu D, Peng L. Risk of Esophageal Adenocarcinoma After Bariatric Surgery:
A Meta-Analysis of Retrospective Studies. Obes Surg. 2024;34(4):1413-1424.
doi:10.1007/s11695-024-07190-9 - Dai H, Li Y, Lee YA, et al. GLP-1 Receptor Agonists and Cancer Risk in Adults With
Obesity. JAMA Oncol. 2025;11(10):1186-1193. doi:10.1001/jamaoncol.2025.2681 - U.S. Department of Health and Human Services, Office of the Surgeon General. Alcohol
and Cancer Risk: The U.S. Surgeon General’s Advisory. Washington, DC: HHS; January 3, - Jankowski JAZ, de Caestecker J, Love SB, et al. Esomeprazole and aspirin in Barrett’s
oesophagus (AspECT): a randomised factorial trial. Lancet. 2018;392(10145):400-408.
doi:10.1016/S0140-6736(18)31388-6
※本コラムは医学的情報の提供を目的としたものであり、個別の診断・治療を代替するものではありません。気
になる症状がある方は医療機関にご相談ください。
記事監修者田場 隆介
医療法人社団 青山会 まんかいメディカルクリニック 理事長
医療法人社団青山会代表。兵庫県三田市生まれ、三田小学校、三田学園中学校・同高等学校卒業。 1997(平成9)年岩手医科大学医学部卒業、町医者。聖路加国際病院、淀川キリスト教病院、日本赤十字社医療センター、神戸市立医療センター中央市民病院を経て、2009(平成21)年医療法人社団青山会を継承。 2025年問題の主な舞台である地方の小都市で、少子高齢化時代の主役である子どもと高齢者のケアに取り組んでいる。
