【生活習慣】健康寿命は細胞の「発電所」が決めている―VO2max、ミトコンドリア、運動という唯一無二の処方箋―
はじめに
駅の階段を上りきったとき、以前より息が上がるようになった。荷物を持って坂道を歩くと、途中で足を止めたくなる。こうした変化を「歳のせい」と片づけてしまう方は少なくありません。しかし、この「息切れのしやすさ」こそが、その後の人生の質と長さを最も正確に予測する指標であることを、次々と明らかにしています。
2026 年 4 月に Journal of the American College of Cardiology 誌に掲載された Meernik らの研究(Cooper Center Longitudinal Study、24,576 名)は、中年期の体力が高い人ほど健康寿命そのものが延び、11 の慢性疾患のいずれもが平均 1.5 年以上遅れて発症することを示しました。また欧州心臓病学会(ESC)の予防循環器学会(EAPC)は 2025 年、Bahls らによる科学声明の中で、これからの運動医学も「健康寿命(healthspan)」を評価軸にすべきだと明確に提言しています。
では、その「体力」の正体は何なのでしょうか。本コラムがお伝えしたいのは、一本の明快な因果の連鎖です。健康寿命を決めるのは VO2max(最大酸素摂取量)であり、VO2max を決めるのは細胞内のミトコンドリアであり、そしてミトコンドリアを鍛え直せる手段は、今のところ運動をおいて他にない、ということです。この連鎖を、2026 年 8 月に Cell Press 社のiScience 誌に発表された最新の総説をはじめとする国内外 10 件の論文から読み解いていきます。
1.平均寿命と健康寿命の差― 私たちが本当に延ばすべきもの
日本人の平均寿命は世界最高水準にあります。しかし「介護を必要とせず自立して生活できる期間」である健康寿命との間には、男性で約 8〜9 年、女性で約 12 年の開きがあることが繰り返し報告されています。つまり人生の最後の 10 年前後を、多くの方が何らかの介助を受けながら過ごしている計算になります。
欧州心臓病学会 EAPC の Bahls らは 2025 年の European Journal of Preventive Cardiology誌の科学声明で、身体活動の効果を評価する際に総死亡率だけを見るのは不十分であると指摘し、①身体機能、②認知・精神の健康、③慢性疾患の予防、④生活の質(QOL)という 4 つの次元で「健康寿命志向のアウトカム」を測るべきだと提案しました。単に長く生きるのではなく、良い状態で長く生きる。この視点の転換が、いま医療の中心にあります。
そして重要なのは、この健康寿命が「運任せ」ではないという点です。前述の Meernik らのJACC 2026 年の研究では、中年期に高い体力を有していた男性は、低体力群と比べて健康寿命が約 2%、総寿命が約 3%長く、生涯に抱える主要慢性疾患の数が約 9%少ないという結果が示されました。女性でも同様の傾向が確認されています。体力という測定可能な指標が、その後 20 年以上の人生の質を左右していたのです。
2.VO2max(最大酸素摂取量)とは何か ― 健康寿命を映す鏡
VO2max(最大酸素摂取量)とは、全力で運動したときに体が 1 分間あたりに取り込んで実際に使うことのできる酸素の最大量を指します。単位は体重 1kg あたり mL/分で表され、一般には運動負荷試験(トレッドミルや自転車エルゴメータ)で測定します。臨床の現場では、これを簡便化した「METs(代謝当量)」という指標が広く使われており、安静時の酸素消費量(約3.5 mL/kg/分)の何倍の運動をこなせるかを示します。
VO2max は、単なる「スポーツの成績」ではありません。酸素を肺で取り込み、心臓と血管で全身に運び、最終的に筋肉の細胞内で消費する——この一連のプロセスの総合的な能力を、たった一つの数字に集約したものです。したがって VO2max が低いということは、呼吸・循環・代謝のいずれか、あるいはすべてに予備能の乏しさが生じていることを意味します。心不全や慢性閉塞性肺疾患(COPD)の重症度評価に VO2max が用いられるのは、このためです。
さらに近年注目されているのが「有酸素予備能(aerobic resilience)」という概念です。これは日常生活で使う酸素量から最大運動時の酸素量まで、どれだけ余裕を持って引き上げられるかを表します。この予備能が小さいと、感染症や手術、転倒といった不測の負荷がかかったときに一気に生活機能が破綻します。高齢者が肺炎をきっかけに寝たきりになるという臨床でよく見る経過は、まさにこの予備能の枯渇として説明できます。
3.「低体力」は喫煙・糖尿病より危険 ― 12 万人が示した衝撃のデ
ータ
VO2max が健康寿命を予測するという主張には、極めて強固な疫学的裏付けがあります。米国クリーブランドクリニックの Mandsager らが JAMA Network Open 誌(2018 年)に発表した研究は、運動負荷試験を受けた 122,007 名を追跡した大規模コホートです。体力レベルを五段階に分けて解析したところ、最上位の「エリート」群は最下位の「低体力」群と比べ、あらゆる原因による死亡リスクが 80%低いという結果でした(補正後ハザード比 0.20、95%信頼区間 0.16〜0.24)。
注目すべきは、この研究が同時に測定した従来の危険因子との比較です。喫煙のハザード比は 1.41、糖尿病は 1.40、冠動脈疾患は 1.29 でした。これに対し、低体力であることのハザード比はエリート群を基準として 5.04 に達しています。すなわち「運動不足による低体力」は、統計学的には喫煙や糖尿病を上回る死亡リスク因子だったのです。著者らは「心肺体力の低さは、修正可能な危険因子の中で最も強力なものの一つである」と結論しています。
もう一つ重要なのは、この研究で「体力が高すぎることによる不利益」が観察されなかった点です。VO2max の上昇に伴う死亡リスクの低下には天井が見られず、最も体力の高い群まで一貫して生存曲線が改善していました。つまり、どのレベルにいる方であっても、そこからさらに 1MET でも体力を上げることには意味があるということです。これは、すでに運動習慣のある方にとっても、これから始める方にとっても、等しく励みになる知見です。
4.体力は体重に勝る ― 2025 年メタ解析が塗り替えた「肥満=不健
康」の図式
体重計の数字ばかりを気にしていませんか。2025 年に British Journal of Sports Medicine誌に掲載された Weeldreyer らの系統的レビュー・メタ解析は、この常識に修正を迫るものでした。研究者らは BMI(体格指数)と心肺体力(CRF)を組み合わせて対象者を分類し、「標準体重かつ体力あり」群を基準として死亡リスクを比較しました。
結果は明快でした。「肥満だが体力あり」群の総死亡ハザード比は 1.11(95%信頼区間 0.88〜1.40)、心血管死は 1.62(0.87〜3.01)で、いずれも統計学的に有意ではありませんでした。
一方、「標準体重だが体力なし」群は総死亡 1.92(1.43〜2.57)、心血管死 2.04(1.32〜3.14)と明確にリスクが上昇し、「肥満かつ体力なし」群では心血管死が 3.35(1.17〜9.61)にまで達しました。著者らは「心肺体力は死亡の強力な予測因子であり、過体重・肥満に伴うリスクを減弱させる」と述べています。
この知見は、減量が不要であることを意味するものではありません。内臓脂肪の蓄積が炎症性サイトカインを介して代謝異常を招くことは確立した事実です。しかし、体重が思うように落ちないことを理由に運動をやめてしまうことこそが、最大の損失であるという臨床的示唆は明確です。当院では、体組成の評価と並行して運動耐容能を確認し、「体重が減らなくても体力は着実に上がっている」という変化をご本人と共有することを大切にしています。
5.VO2max の正体は細胞の発電所 ― ミトコンドリアという律速段階
では、なぜある人は VO2max が高く、ある人は低いのでしょうか。かつては心臓のポンプ機能(心拍出量)がすべてを決めると考えられていました。しかし現在では、取り込んだ酸素を実際に使い切る側の能力——すなわち骨格筋細胞内のミトコンドリアの量と質——が、加齢期においてはむしろ律速段階になると理解されています。
ミトコンドリアは約 20 億年前に原始的な真核細胞に取り込まれた α-プロテオバクテリアを起源とする細胞内小器官で、酸素を用いて ATP(アデノシン三リン酸)というエネルギー通貨を産生します。2026 年 8 月に iScience 誌に掲載された Zhou らの総説によれば、安静時における単位重量あたりのエネルギー消費率は、心臓と腎臓が約 440 kcal/kg/日、脳が約 240、肝臓が約 200 と極めて高く、これらの臓器はミトコンドリア機能に決定的に依存しています。
脳は体重のわずか 2%にすぎませんが、1 日の総エネルギーの最大 20%を消費します。この「ミトコンドリアが VO2max を決めている」という関係は、ヒトで直接証明されています。2026 年に Age and Ageing 誌に発表された Trevisan らの研究(Baltimore LongitudinalStudy of Aging)は、31P 磁気共鳴分光法で筋肉のクレアチンリン酸回復速度を測定し、ミトコンドリア酸化能の高い群では最大酸素摂取量が約 4.07 mL/kg/分も高いこと、そして有酸素予備能も有意に優れていることを示しました。細胞レベルの発電能力が、そのまま全身の体力として現れていたのです。
6.加齢でミトコンドリアに何が起きるのか ― 数の減少、断片化、そ
して炎症
加齢に伴うミトコンドリアの劣化は、単に「数が減る」だけの単純な現象ではありません。オランダ・マーストリヒト大学の Grevendonk らが Nature Communications 誌(2021 年)に報告した研究では、1 日約 1 万歩という同等の身体活動量にもかかわらず、高齢者は若年者と比べて最大酸素摂取量が約 26%低く、クレアチンリン酸の回復速度も約 16%低下していました。同時に運動効率とインスリン感受性も低下しており、ミトコンドリア機能が代謝の健康と直結していることが示されています。
さらに近年注目されているのが「形の異常」です。2025 年に Aging Cell 誌に掲載されたGoulding らの研究は、骨格筋ミトコンドリアの断片化(fragmentation)が、加齢に伴う身体能力の低下を予測することを明らかにしました。健常なミトコンドリアは互いに融合してネットワーク状の構造をとり、損傷した部分を分離・除去しながら質を保っています。この動的な調節が破綻すると、細切れになった不良ミトコンドリアが蓄積していきます。
問題はここからです。前述の iScience 誌の総説が詳述するように、損傷したミトコンドリアは活性酸素種(ROS)を過剰に産生するだけでなく、ミトコンドリア DNA(mtDNA)を細胞質に漏出させます。この漏れ出た mtDNA は cGAS-STING 経路や NLRP3 インフラマソームを活性化し、IL-1β、IL-6、TNF-α といった炎症性サイトカインの持続的な放出を招きます。加齢に伴う慢性微小炎症(いわゆるインフラメイジング)の震源地が、実は細胞内の発電所の故障だったということです。
7.運動はミトコンドリアを「作り直す」 ― AMPK/PGC-1α 経路とマ
イトファジー
ここからが本コラムの核心です。加齢によって劣化するミトコンドリアに対し、現時点で最も確実に「作り直し」を促せる介入が運動です。iScience 誌の Zhou らの総説は、そのメカニズムを次のように整理しています。運動時、組織のエネルギー需要は最大で約 100 倍にまで高まり、ATP が急速に消費されて AMP/ATP 比が上昇します。これがエネルギーセンサーである AMPK(AMP 活性化プロテインキナーゼ)を活性化し、転写共役因子 PGC-1α を核内へ移行させます。
核内に入った PGC-1α は、NRF1/2(核呼吸因子)を介して TFAM(ミトコンドリア転写因子 A)の発現を高め、mtDNA の複製・転写を促進します。同時に電子伝達系複合体の構成タンパクや、融合因子 Mfn1/2・OPA1、分裂因子 Drp1 の発現も上昇します。つまり運動は「新しいミトコンドリアを作る(生合成)」と「形を作り直す(動態)」を同時に起動させるのです。加えて運
動は PINK1/Parkin、BNIP3/NIX、FUNDC1 といった経路を介したマイトファジー(不良ミトコンドリアの選択的除去)も活性化します。新設と解体が同時に進むことで、集団としての質が入れ替わっていきます。
この効果は、高齢者ほど大きい可能性があります。米国メイヨークリニックの Robinson らが Cell Metabolism 誌(2017 年)に発表した無作為化比較研究では、12 週間の高強度インターバルトレーニング(HIIT)によって骨格筋のミトコンドリア呼吸能が若年群で約 49%、高齢群では約 69%も増加しました。有酸素能力の改善が得られたのは HIIT と有酸素・筋力の併用トレーニングのみで、筋力トレーニング単独では認められませんでした。ミトコンドリアの再生には、心拍数を上げる運動が不可欠だということです。
8.効果は筋肉だけではない ― 心臓・脳・肝臓・腎臓の「臓器横断
的」若返り
iScience 誌の総説が画期的なのは、この運動によるミトコンドリア再構築が骨格筋にとどまらず、高エネルギー消費臓器の全体で起きることを横断的に示した点にあります。心臓では、運動が PKG/STAT3/OPA1 経路および SIRT1/PGC-1α/AMPK 経路を活性化し、ATP 合成能とMn-SOD(マンガンスーパーオキシドジスムターゼ)による抗酸化能を高め、mtDNA の酸化損傷を抑制します。
脳においては、運動が PGC-1α/BDNF/AKT/GSK-3β 経路と NRF2/GSK-3β 経路を賦活し、海馬でのミトコンドリア生合成を促進します。動物実験では、18 か月齢のラットに 7 週間の水泳訓練を行うことで融合と分裂のバランスが是正され、加齢に伴う認知機能低下が有意に改善しました。肝臓では、TFAM/NRF1/BNIP3 経路と SOD/MDA/GSSH 経路を介して脂肪蓄積と酸化ストレスが軽減され、脂肪性肝疾患(MASLD/NAFLD)の進行が抑制されます。腎臓では、Klotho/NRF2/KEAP1 経路と TGF-β1/TAK1/MAPK 経路を通じて線維化と炎症が抑えられ、約 20万人を対象とした解析でも身体活動量と慢性腎臓病(CKD)発症リスクの逆相関が確認されています。
ただし、この恩恵には条件があります。同総説は、運動刺激を 3 週間止めただけで骨格筋のATP 産生速度、ミトコンドリア酵素活性、最大酸素摂取量がいずれも有意に低下することを指摘しています。また、過剰な高強度運動は ROS の大量発生を通じてミトコンドリアの融合を阻害し、かえって機能障害を招くことも報告されています。ミトコンドリアの若返りは「貯金」ではなく「定期購読」でり、かつ適正用量が存在する——これが臨床的に最も重要なメッセージです。
9.実践編 ― VO2max を上げる運動処方
では具体的に何をすればよいのでしょうか。基盤となるのは、各国のガイドラインが共通して推奨する「中強度有酸素運動を週 150 分以上、または高強度を週 75 分以上」です。中強度とは、会話はできるが歌うことは難しい程度、具体的には早歩き、水中歩行、自転車、ラジオ体操などが該当します。これに週 2 回以上の筋力トレーニングを加えることで、筋量の維持とミトコンドリア容量の増加が両立します。
VO2max を効率よく引き上げたい場合は、インターバル要素の追加が有効です。Robinson らの研究が示したように、心拍数を大きく上げる刺激がミトコンドリア生合成の最も強力なトリガーになるためです。ただし高齢の方や心血管疾患をお持ちの方が自己判断で高強度運動を始めるのは危険であり、必ず事前の医学的評価が必要です。iScience 誌の総説も、サルコペニアを有する高齢者では過負荷がかえってミトコンドリア損傷を助長しうるとして、生理学的モニタリング下での実施を推奨しています。
「まとまった運動の時間が取れない」という方にこそお伝えしたいのが、2022 年に NatureMedicine 誌に掲載された Stamatakis らの研究です。運動習慣のない 25,241 名にウェアラブル端末を装着し平均 6.9 年追跡したところ、日常生活の中の 1〜2 分の激しい活動(VILPA:早歩きで階段を上る、荷物を持って急ぐ、といった動作)を 1 日 3 回行っている人では、総死亡リスクが 39%低下(ハザード比 0.61、95%信頼区間 0.50〜0.74)、心血管死は 49%低下(ハザード比 0.51、95%信頼区間 0.35〜0.74)していました。ジムに通う必要はありません。エスカレーターやめて階段を駆け上がる。細胞の発電所は動き始めます。
おわりに ― 「運動は治療そのもの」
本コラムでご紹介した 10 件の研究は、一本の線でつながっています。健康寿命を最もよく予測するのは VO2max であり(Mandsager 2018、Meernik 2026、Weeldreyer 2025)、そのVO2max を決めているのは細胞内のミトコンドリアの量と質であり(Trevisan 2026、
Grevendonk 2021、Goulding 2025)、そしてそのミトコンドリアを再生できる唯一の確立した手段が運動である(Zhou 2026、Robinson 2017、Stamatakis 2022、Bahls 2025)——という連鎖です。
言い換えれば、運動とは「健康によいこと」ではなく、細胞レベルで作用機序が解明された治療そのものです。しかも副作用は少なく、心臓・脳・肝臓・腎臓・筋肉のすべてに同時に効きます。これほど費用対効果に優れた処方箋は他にありません。
当院では、運動を「気合いで頑張るもの」ではなく「処方するもの」と考えています。CTや超音波による体組成・内臓脂肪の評価、血液検査による代謝状態の把握、運動耐容能の確認を組み合わせ、お一人おひとりの現在地を数値で明らかにしたうえで、無理なく続けられる運動プログラムをご提案します。日曜・祝日も診療しておりますので、今日から一緒に始めましょう。
FAQ ― よくあるご質問
Q1. VO2max(最大酸素摂取量)は、病院で測ってもらえるのですか?
正式には呼気ガス分析装置を用いた心肺運動負荷試験(CPX)で測定しますが、専門施設に限られます。実臨床では、トレッドミルや自転車エルゴメータによる運動負荷試験から推定 METs 値を求める方法が広く用いられており、Mandsager らの 122,007 名の研究(JAMANetwork Open, 2018)もこの手法によるものです。また 6 分間歩行試験や、階段を休まず何階分上れるかといった簡便な指標も、日常診療では有用な代用となります。まずはご自身の「息切れの程度」を医師に具体的に伝えていただくことが、評価の第一歩です。
Q2. 太っていても運動していれば大丈夫、ということですか?
体重よりも体力のほうが死亡リスクへの影響が大きい、というのが最新のエビデンスです。Weeldreyer らの 2025 年のメタ解析(British Journal of Sports Medicine)では、「肥満だが体力あり」群の総死亡ハザード比は 1.11 で有意差がなかった一方、「標準体
重だが体力なし」群は 1.92 と明確にリスクが上昇していました。ただしこれは減量が不要という意味ではなく、内臓脂肪の蓄積は炎症を介して代謝異常を招きます。減量と体力向上は両輪であり、体重が動かない時期でも運動を続ける価値が極めて大きい、とご理解ください。
Q3. サプリメントでミトコンドリアを増やすことはできますか?
NMN やコエンザイム Q10、ウロリチン A などミトコンドリアを標的とした成分の研究は活発ですが、ヒトにおいて運動と同等のミトコンドリア生合成効果を証明した大規模試験はまだありません。一方、運動については、12 週間の HIIT で骨格筋ミトコンドリア呼吸
能が高齢者で約 69%増加したという Robinson らの無作為化比較研究(Cell Metabolism,2017)をはじめ、質の高いエビデンスが蓄積しています。サプリメントは補助的な位置づけと考え、まず運動という「本体の処方」を優先されることをお勧めします。
Q4. 高齢だから、もう手遅れでしょうか?
むしろ高齢の方ほど改善幅が大きい可能性があります。Robinson らの研究では、HIIT によるミトコンドリア呼吸能の増加は若年群の約 49%に対し、65〜80 歳の高齢群で約 69%と、より大きな反応が得られました。iScience 誌の Zhou らの総説(2026 年)も、加齢が始まった後の運動介入であっても大多数の研究で有益な効果が確認されていると述べています。
ただし高齢者では過負荷がミトコンドリア損傷を招く危険もあるため、開始前に必ず医学的評価を受け、強度を段階的に上げていくことが重要です。
Q5. 忙しくて運動の時間が取れません。短時間でも意味はありますか?
大いにあります。Stamatakis らが運動習慣のない 25,241 名を平均 6.9 年追跡した研究(Nature Medicine, 2022)では、1〜2 分の激しい日常活動(階段を速く上る、荷物を持って急ぐなど)を 1 日 3 回行うだけで、総死亡リスクが 39%、心血管死リスクが 49%低下して
いました。まとまった運動時間を確保できなくても、日常の移動を意図的に「息が弾む強度」に変えるだけで効果が得られます。エスカレーターを階段に替える、一駅手前で降りて早歩きする、といった工夫から始めてみてください。
参考文献
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※本コラムは医学的情報の提供を目的としたものであり、個別の診断・治療を代替するものではありません。気
になる症状がある方は医療機関にご相談ください。
記事監修者田場 隆介
医療法人社団 青山会 まんかいメディカルクリニック 理事長
医療法人社団青山会代表。兵庫県三田市生まれ、三田小学校、三田学園中学校・同高等学校卒業。 1997(平成9)年岩手医科大学医学部卒業、町医者。聖路加国際病院、淀川キリスト教病院、日本赤十字社医療センター、神戸市立医療センター中央市民病院を経て、2009(平成21)年医療法人社団青山会を継承。 2025年問題の主な舞台である地方の小都市で、少子高齢化時代の主役である子どもと高齢者のケアに取り組んでいる。
