病気と健康の話

【人間ドック】膵臓にたまる“内臓脂肪”―5 人に 1 人のリスクと、脂肪を減らす方法—

はじめに ― 健診で「膵脂肪変性の疑い」と言われたら

人間ドックや健診の腹部超音波(エコー)検査で、「膵脂肪変性の疑い」」と書かれていて、不安になった経験はありませんか。肝臓の脂肪(脂肪肝)はよく知られていますが、「膵臓にも脂肪がたまる」と聞くと、多くの方が戸惑われます。この“膵臓の内臓脂肪”は、いま注目されているテーマです。2026 年、世界 6 大陸 25 名の専門家が参加して Nature Reviews Gastroenterology & Hepatology 誌にまとめた国際コンセンサス(通称「メルボルン・コンセンサス」/Petrov et al., 2026)は、膵臓に過剰な脂肪がたまった状態を「脂肪膵(fatty pancreas disorder)」という一つの病態として正式に定義しました。近年の約 10 万人規模のデータでは、成人のおよそ 5 人に 1 人が膵臓に過剰な脂肪をかかえていると報告されています。本コラムでは、健診で「膵脂肪変性の疑い」と指摘された方に向けて、この指摘をどう受け止め、何に気をつけ、どう対処すればよいのかを、欧米の最新エビデンスとともに、やさしく解説します。

1. 「脂肪膵」とは何か

膵臓は、食べ物を消化する酵素と、血糖を調節するインスリンなどのホルモンを作る、みぞおちの奥にある大切な臓器です。この膵臓の内部に、脂肪の粒(脂肪細胞や脂肪のしずく)がじわじわとたまっていく現象を「膵臓の内臓脂肪」 = 専門的には膵内脂肪沈着 (intrapancreatic fat deposition:IPFD)と呼びます。牛肉の“霜降り”のように、臓器の中に脂肪が入り込むイメージです。ごく少量の脂肪は誰の膵臓にもあり生理的なものですが、それが過剰になり健康リスクをもたらす状態が「脂肪膵(fatty pancreas disorder:FPD)」です(Petrov et al., Nat Rev Gastroenterol Hepatol 2026)。

これまで「膵脂肪変性」「膵脂肪症」などさまざまな呼び名が使われてきましたが、メルボルン・コンセンサスは、脂肪細胞そのものの沈着を含む病態として「脂肪膵」という用語を推奨しています。長く膵臓は解剖学的に観察が難しく、脂肪肝ほど注目されてきませんでした。しかし MRI など画像技術の進歩で“隠れた脂肪”を測れるようになり、脂肪膵は糖尿病・膵炎・膵臓がんに関わる「臓器そのものの異常」として、急速に研究が進んでいます (Petrov & Taylor, Nat Rev Gastroenterol Hepatol 2022)。

2. なぜ超音波では「疑い」なのか ― 検査の限界と正しい受け止め方

まず知っておいていただきたいのは、腹部超音波(エコー)は脂肪膵を「疑う」ことはできても、「確定」したり脂肪の量を正確に測ったりはできない、という点です。エコーでは膵臓が周囲(腎臓や脾臓など)より白く明るく映るかどうかで脂肪の多さを推測しますが、この判定は検査者の技量や体格、腸のガスの影響を受けやすく、あくまで定性的なものです (Petrov et al., 2026)。実際、超音波で脂肪膵と判定された方のかなりの割合が、より精密なMRI や CT では基準に当てはまらなかった、という報告もあります。

だからといって「疑い」を無視してよいわけではありません。国際コンセンサスは、脂肪膵を正確に評価する“基準となる検査”は MRI(とくに脂肪の割合を測るプロトン密度脂肪分画)であり、CT も補助的に使えるとしています(Petrov et al., 2026)。つまり健診での「膵脂肪変性の疑い」は、確定診断ではなく“さらに調べる価値のあるサイン”です。大切なのは、過度に怖がって放置することでも、逆に軽視することでもなく、血糖・脂質・肝機能などの代謝の状態をあわせて確認し、必要に応じて画像で追加評価するという、次の一歩につなげることです。

3. やせていても他人事ではない ― 5 人に 1 人の“隠れ脂肪”

脂肪膵は決してまれな状態ではありません。約 10 万人規模のデータを統合した近年の解析では、成人のおよそ 5 人に 1 人が膵臓に過剰な脂肪をかかえていると報告されています (Petrov et al., 2026)。加齢とともに増え、女性より男性にやや多い傾向があり、思春期の体の変化のころから少しずつ蓄積が始まると考えられています。子どもや思春期でも、肥満やメタボの要素と関連して膵臓の脂肪が増えることが、系統的レビューで示されています (eClinicalMedicine, 2025)。

重要なのは、「太っている人だけの問題ではない」ということです。メルボルン・コンセンサスは脂肪膵を、体格に応じて二つの型に分けています。肥満を伴わない(BMI が低め〜標準の)方に起こる「1 型」と、肥満を伴う方に起こる「2 型」です(Petrov et al., 2026)。とくにアジア人はやせていても内臓脂肪や代謝異常をきたしやすく、見た目がスリムでも脂肪膵が隠れていることがあります。実際、脂肪膵は体格指数(BMI)や腹囲、さらには肝臓の脂肪(脂肪肝)の量だけでは説明しきれないことが分かっており(Petrov & Taylor, 2022)、まさに“隠れ脂肪”と呼ぶにふさわしい存在なのです。

4. 脂肪膵が招く 3 つのリスク ― 糖尿病・膵炎・膵臓がん

では、膵臓に脂肪がたまると何が心配なのでしょうか。第一は糖尿病です。インスリンを作る膵臓に脂肪がたまると、その働きがじわじわと損なわれます。大規模な追跡研究をまとめると、脂肪膵のある人は 2 型糖尿病になるリスクが有意に高く、ある研究では約 4.6 年で34%、別の長期研究では約 11 年で 81%も発症リスクが高いと報告されました。膵内脂肪が 1%増えるごとに糖尿病リスクが約 7%上がるというデータもあります(Petrov et al., 2026)。膵臓の脂肪細胞が、インスリンを作る β 細胞のすぐそばで悪影響を及ぼすしくみも、権威ある糖尿病専門誌で示されています(Diabetologia, 2025)。

第二は膵炎です。大規模な MRI 研究では、脂肪膵のある人は急性膵炎を初めて起こすリスクが約 3.9 倍高く、膵内脂肪が 1%増えるごとにリスクが約 1.3 倍になると報告されています。遺伝情報を用いた「メンデルランダム化解析」でも、膵臓の脂肪が急性・慢性膵炎の“原因”になりうることが示されました(メンデルランダム化解析, 2024;Petrov et al., 2026)。第三は膵臓がんです。膵臓がんは早期発見が難しく“沈黙の臓器のがん”とも呼ばれますが、 複数の研究を統合した解析では、脂肪膵のある人は膵臓がんのリスクが約 2.8〜3.2 倍高いと報告されています(Cancers, 2023;Petrov et al., 2026)。膵臓がんの患者さんの半数以上に脂肪膵がみられたという報告もあります。

もっとも、これらの数字は「脂肪膵があれば必ず病気になる」という意味ではありません。あくまで“リスクが高まる”という統計上の傾向であり、多くの方は適切な対処で発症を避けられます。過度に不安を抱く必要はありませんが、糖尿病・膵炎・膵臓がんという見過ごせない病気の“共通の土壌”になりうる点は、知っておく価値があります。

5. 内臓脂肪・脂肪肝とどう違うのか ― 全身からのサイン

脂肪膵は、おなかの内臓脂肪や脂肪肝とよく似た仲間ですが、まったく同じではありません。膵臓の周りを取り囲む脂肪(膵周囲脂肪)は内臓脂肪の一部であり、脂肪膵(膵臓の“中”の脂肪)とは区別されます(Petrov et al., 2026)。また前述のとおり、膵臓の脂肪は BMI や腹囲、肝臓の脂肪の量だけでは説明できず、脂肪肝がなくても脂肪膵があることも、その逆もあります(Petrov & Taylor, 2022)。つまり脂肪膵は、体全体の脂肪の“おまけ”ではなく、膵臓という臓器で独自に進む変化なのです。

一方で、脂肪膵はしばしば高血圧・脂質異常・血糖高値・脂肪肝といったメタボリック症候群の要素と連れ立って現れます。英国の大規模コホート(UK バイオバンク)研究では、膵臓の脂肪が全身のさまざまな健康リスクと結びつくことが示されました(Insights Imaging, 2026)。また 2 型糖尿病の方では脂肪膵の頻度が高いことも系統的に確認されています (Current Obesity Reports, 2026)。ですから健診で「膵脂肪変性の疑い」と言われたら、それは膵臓だけの話ではなく、「全身の代謝に黄信号がともっているかもしれない」という体からのメッセージとして受け止めることが大切です。

6. 朗報 ― “隠れ脂肪”は減らせる、戻せる

ここまで読んで心配になった方に、最も大切なことをお伝えします。膵臓の脂肪は、努力しだいで減らせる・元に戻せる可能性が高い、ということです。メルボルン・コンセンサスは、脂肪膵を「修正可能(modifiable)な状態」と位置づけ、食事・運動・減量・薬物治療によって改善しうるとまとめています(Petrov et al., 2026)。実際、カロリーを抑えた食事(低エネルギー食)を数か月続けると、膵臓の脂肪が有意に減少することが複数の研究で示されています。エネルギー制限だけでなく、地中海食や、糖質を控えてたんぱく質を確保する食事など“質の改善”でも、膵臓の脂肪が減ることが報告されています。

運動も有効です。ウォーキングなどの中等度の有酸素運動や、短時間で追い込むインターバル運動、筋トレと有酸素の組み合わせなどが、膵臓の脂肪を減らすことが示されています (Petrov et al., 2026)。さらに、体重を大きく減らして糖尿病が“寛解”した方では、膵臓の形や脂肪が健康な状態に近づくことが、英国の DiRECT 試験で確認されました(Al-Mrabeh et al., Lancet Diabetes Endocrinol 2020)。糖尿病治療に使われる一部の薬(GLP-1 受容体作動薬やSGLT2 阻害薬など)にも、膵臓の脂肪を減らす作用が期待されています。ただし効果が現れるには数か月かかり、もともとの脂肪が多い人ほど減り幅も大きい傾向があります。あせらず、続けることが何よりの近道です。

7. 「疑い」と言われた方へ ― 次にすべきこと

健診で「膵脂肪変性の疑い」と指摘されたら、まずは落ち着いて、次の三つを意識してください。一つ目は「代謝の点検」。血糖(HbA1c)、脂質、肝機能、腹囲などを確認し、糖尿病やメタボが隠れていないかを調べます。脂肪膵は全身の代謝異常と背中合わせだからです (Insights Imaging, 2026)。二つ目は「必要に応じた精密検査」。症状や他の所見によっては、MRI や CT での追加評価、あるいは膵臓そのものの状態を確認する検査を検討します (Petrov et al., 2026)。三つ目は「生活の見直し」。前章のとおり、食事・運動・減量は膵臓の脂肪を確実に減らす“治療”になります。

まんかいメディカルクリニックでは、腹部超音波や CT による評価、血液検査による血糖・脂質・肝機能・栄養状態のチェック、そして管理栄養士・運動療法と連携した生活改善まで、背景にある代謝を総合的に診る体制を整えています。「疑い」で終わらせず、気になる健診結果は、ぜひお気軽にご相談ください。

おわりに ― 膵臓からの“早めのメッセージ”

健診の「膵脂肪変性の疑い」は、こわい宣告ではなく、膵臓からの“早めのメッセージ”です。膵臓の内臓脂肪=脂肪膵は、成人の 5 人に 1 人にみられるほどありふれた状態で、やせている方にも起こりえます。放置すれば糖尿病・膵炎・膵臓がんの土壌になりうる一方、食事・運動・減量によって減らせる・戻せる、前向きに対処できる状態でもあります。大切なのは、指摘を“見なかったことにしない”こと、そして体格や見た目だけで判断せず、膵臓と全身の代謝をていねいに確認することです。膵臓は「沈黙の臓器」だからこそ、こうした早いサインを大切に。気になる方は、どうぞお早めにご相談ください。

FAQ ― よくあるご質問

Q1. 健診で「膵脂肪変性の疑い」と言われました。すぐに治療が必要ですか?

多くの場合、ただちに薬物治療が必要というわけではありません。超音波は脂肪膵を「疑う」ことはできても確定はできないため(Petrov et al., 2026)、まずは血糖(HbA1c)・脂質・肝機能などの代謝の点検をおすすめします。そのうえで、必要に応じて MRI・CT での精密評価を検討します。脂肪膵は食事・運動・減量で改善が期待できる状態なので、過度に心配せず、生活の見直しと定期的なチェックから始めましょう。

Q2. やせているのに脂肪膵と言われました。なぜですか?

脂肪膵は肥満の方だけの問題ではありません。国際コンセンサスは、肥満を伴わない「1 型」と肥満を伴う「2 型」に分類しており(Petrov et al., 2026)、やせている方にも起こりえます。膵臓の脂肪は BMI や腹囲、肝臓の脂肪の量だけでは説明できないことが分かっています(Petrov & Taylor, 2022)。とくにアジア人はやせていても代謝異常をきたしやすいため、体格にかかわらず、血糖や脂質などの代謝を確認することが大切です。

Q3. 脂肪膵だと、膵臓がんになりやすいのですか?

複数の研究を統合した解析では、脂肪膵のある人は膵臓がんのリスクが約 2.8〜3.2 倍高いと報告されています(Cancers, 2023;Petrov et al., 2026)。ただしこれは“リスクが高まる傾向”であり、脂肪膵があれば必ずがんになるという意味ではありません。過度に不安になる必要はありませんが、膵臓がんは早期発見が難しいため、脂肪膵を生活改善のきっかけととらえ、気になる症状(持続する腹痛・体重減少・黄疸など)がある場合は早めに受診してください。

Q4. 膵臓の脂肪は減らすことができますか?

はい、減らせる可能性が高い状態です。カロリーを抑えた食事や、地中海食・糖質を控えた高たんぱく食、有酸素運動やインターバル運動などで膵臓の脂肪が減ることが示されています(Petrov et al., 2026)。体重を減らして糖尿病が寛解した方では、膵臓の形や脂肪が健康な状態に近づいたという報告もあります(Al-Mrabeh et al., 2020)。効果が出るには数か月かかるため、あせらず継続することが大切です。当院では栄養・運動の両面からサポートします。

Q5. 脂肪肝もあります。脂肪膵と関係がありますか?

脂肪肝と脂肪膵はよく合併しますが、必ず一致するわけではありません。膵臓の脂肪は肝臓の脂肪の量だけでは説明できず、脂肪肝がなくても脂肪膵があることも、その逆もあります(Petrov & Taylor, 2022)。ただし、どちらも高血糖・脂質異常などのメタボリック症候群と結びつきやすく(Insights Imaging, 2026)、全身の代謝の乱れを映す鏡といえます。両方を指摘された方は、食事・運動・減量による全身の代謝改善が、肝臓と膵臓の両方に役立ちます。

参考文献

  1. Petrov MS, Yamazaki H, Lu G, et al. Conceptual framework and expert guidance on intrapancreatic fat deposition: the Melbourne consensus. Nat Rev Gastroenterol Hepatol. 2026. https://doi.org/10.1038/s41575-026-01224-6
  2. Petrov MS, Taylor R. Intra-pancreatic fat deposition: bringing hidden fat to the fore. Nat Rev Gastroenterol Hepatol. 2022;19(3):153-168. https://doi.org/10.1038/s41575-021-00551-0
  3. Prevalence, clinical characteristics, and outcomes of fatty pancreas disease: an updated systematic review and meta-analysis. Eur J Gastroenterol Hepatol. 2024. https://doi.org/10.1097/MEG.0000000000002893
  4. Fatty pancreas is a risk factor for pancreatic cancer: a systematic review and meta-analysis of 2956 patients. Cancers (Basel). 2023;15(19):4876. https://doi.org/10.3390/cancers15194876
  5. Burden of intrapancreatic fat deposition in type 2 diabetes and the role of obesity: a systematic review and meta-analysis. Curr Obes Rep. 2026. https://doi.org/10.1007/s13679-026-00718-3
  6. Intra-pancreatic fat deposition links to widespread systemic health risks: UK Biobank prospective cohort study. Insights Imaging. 2026. https://doi.org/10.1186/s13244-026-02206-7
  7. Understanding the association of intrapancreatic fat deposition with adiposity and components of metabolic syndrome in children and adolescents: a systematic review and meta-analysis. eClinicalMedicine. 2025. https://doi.org/10.1016/j.eclinm.2025.103168
  8. Intrapancreatic adipocytes and beta cell dedifferentiation in human type 2 diabetes. Diabetologia. 2025. https://doi.org/10.1007/s00125-025-06392-9
  9. The causal effect of intrapancreatic fat deposition on acute and chronic pancreatitis: a Mendelian randomization study. 2024. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39162745/
  10. Al-Mrabeh A, Zhyzhneuskaya SV, Peters C, et al. 2-year remission of type 2 diabetes and pancreas morphology: a post-hoc analysis of the DiRECT open-label, cluster-randomised trial. Lancet Diabetes Endocrinol. 2020;8(12):939-948. https://doi.org/10.1016/S2213-8587(20)30303-X

※本コラムは医学的情報の提供を目的としたものであり、個別の診断・治療を代替するものではありません。
気になる症状がある方は医療機関にご相談ください。

記事監修者田場 隆介

医療法人社団 青山会 まんかいメディカルクリニック 理事長

医療法人社団青山会代表。兵庫県三田市生まれ、三田小学校、三田学園中学校・同高等学校卒業。 1997(平成9)年岩手医科大学医学部卒業、町医者。聖路加国際病院、淀川キリスト教病院、日本赤十字社医療センター、神戸市立医療センター中央市民病院を経て、2009(平成21)年医療法人社団青山会を継承。 2025年問題の主な舞台である地方の小都市で、少子高齢化時代の主役である子どもと高齢者のケアに取り組んでいる。

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